最新記事

人種

黒人差別を語れないオバマのジレンマ

アメリカ初の黒人大統領は、なぜ黒人青年射殺事件でありきたりな発言に終始しているのか

2014年12月8日(月)14時33分
ジャメル・ブイエ

見えない壁 オバマは人種問題に精力的に取り組むと期待されていたが Larry Downing-Reuters

 米ミズーリ州ファーガソンで警察官による黒人青年射殺事件が起きてから3週間近く経った8月末、ヒラリー・クリントン前国務長官が沈黙を破り、人種問題について国民に語り掛けた。

 サンフランシスコのテクノロジー関連イベントで講演したクリントンは、聴衆(ほとんどが白人)にこう問い掛けた。「もし、白人ドライバーが黒人の3倍の確率で、検問で警察に調べられたらと、想像してください」

「もし、白人の犯罪者が同じ罪を犯した黒人より10%長期の刑に服さなくてはならないとしたら? すべての白人男性の3人に1人が生涯の間に刑務所暮らしを経験するとしたら? 想像してみてください。私たちと同じアメリカ人の多くにとって、これが現実なのです」

 賢明な発言だ。それに対してオバマ大統領は、ありきたりで当たり障りのない発言に終始している。

 無理もない。オバマは、黒人であるが故に黒人の共感を得やすいが、白人有権者の反応を考えると、大統領として述べられることに限界がある。オバマが人種問題について発言すると、強い共感と激しい反発の両方を招く結果になるのだ。

 ペンシルベニア大学のダニエル・ギリオン助教(政治学)によれば、大統領就任以来最初の2年間のオバマは、61年以降の民主党大統領の中で最も人種に関する発言が少なかったという。この状況は、大統領を退くまで変わりそうにない。

 オバマに人種問題を語ってほしいと期待していた有権者は期待外れだろう。その点、クリントンが大統領になれば、人種に関するメッセージが発信される可能性は十分にある。

 思えば、共産主義体制の中国を初めて訪問し、国交正常化への道筋をつけたのは、筋金入りの反共主義者として知られていたニクソン大統領だ。レーガン大統領は、「小さな政府」を信奉する強硬な保守派だったからこそ、度重なる増税に踏み切れた面もあった。

 現状では、白人の国民に対して人種について率直に語れるのは、白人の大統領だけなのかもしれない。

[2014年9月 9日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ビジネス

東京海上、クマ侵入による施設の損失・対策費用補償の

ワールド

新興国中銀が金購入拡大、G7による凍結資産活用の動

ワールド

中国万科をS&Pが格下げ、元建て社債は過去最安値に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中