最新記事

移民

グリーンカード目当ての投資条件を引き上げよ

多額の投資を条件に移民ビザを発給する制度は欠陥だらけ

2014年8月28日(木)17時10分
ジョーダン・ワイスマン

憧れの地 永住権を得られるなら金に糸目をつけないという金持ちは増えている Jason Lee-Reuters

 一般的に、供給に対して需要が圧倒的に多い場合、合理的な対応が2つある。供給を増やすか、価格を上げるかだ。この論法で行けば、アメリカは裕福な外国人が欲しがる永住権の「値段」を上げるべきだろう。

 米政府は90年から移民政策の一環として、EB-5プログラムを実施してきた。これはアメリカ国内の地域開発事業に50万ドル以上の投資を行った外国人に永住権を与える制度だ。事業の内容はホテルや工場の建設、インフラ整備など、地域振興に役立つもので、最低10人の雇用を生むことが条件になっている。

 この制度はこれまであまり知られていなかったが、中国の富裕層が家族のために永住権を取得しようと、この制度を利用するようになり、申請が急増。今年初めて申請件数がEB-5による移民ビザの発行割当枠を上回った。

「目的は投資ではない」と、ニューヨークの弁護士イ・ソンは説明する。「子供がより良い教育を受けられるよう、また万が一に備えた保険として」アメリカでの永住権目的で投資する人たちが殺到、既に受付待ちの申請が1万件を越えている。

 アメリカとしては、うれしい悲鳴を上げたいところだ。50万ドル以上払ってでも、この国に住みたい人が大勢いるのなら、いっそ割当枠などなくして、新興国のニューリッチをどんどん受け入れたらどうか。

 しかし、この制度には問題もある。安易に枠を広げれば、事態が悪化しかねない。米国土安全保障省の監察総監室(OIG)が昨年12月に発表した報告書によると、移民局には開発事業の進捗状況やその経済効果を追跡調査する法的権限もなければ、調査に必要な資源もない。

 EB-5の開発事業が地域経済にもたらす効果は評価しにくいケースが多い。移民局は以前、この制度で68億ドルの外資が流入し、4万9000人以上の新規雇用が生まれたと発表したことがある。だが数字の根拠を問われると、「制度が求めている最低限の要件が満たされたと仮定して」算出したと、担当者が答えた。OIGの報告書では、新規の開発事業ではなく、主として債務返済のために既存の事業に投資されたケースがあったとも指摘されており、最低限の要件が満たされているという保証はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、第1四半期の利益が過去最高 フラン安や

ビジネス

仏エルメス、第1四半期は17%増収 中国好調

ワールド

ロシア凍結資産の利息でウクライナ支援、米提案をG7

ビジネス

北京モーターショー開幕、NEV一色 国内設計のAD
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中