最新記事

ハッカー

ロシアが一時亡命を認めたスノーデンの就職先は

引き渡し拒否で米ロ関係悪化は必至だが本人にはテレビやSNSからオファーが殺到中

2013年9月11日(水)16時01分
アンナ・ネムツォーワ (モスクワ)

スノーデンの一時亡命を許可したロシア政府のビザ Maxim Shemetov-Reuters

 米政府のネット監視システムを暴露した元CIA職員のエドワード・スノーデン(30)がロシアへの一時亡命を認められたのは8月1日。スノーデンが長期間滞在したシェレメチェボ国際空港の乗り継ぎエリアを出てモスクワ市内に向かうと、ロシア当局やメディア、企業はすぐに彼を「英雄」「スター」と呼んでセレブ扱いした。

 ただし、今後の身の振り方はまだはっきりしない。ロシア国内には、セレブとして活動し、アンナ・チャップマン(10年にアメリカで摘発されたロシアの元美人スパイ)と結婚すべきだという声もある。メディアから身を隠してひっそりと暮らし、ロシアの情報セキュリティーの強化に協力すべきだという意見もある。

 スノーデンが先週、ロシアで仕事を見つけたいという希望を口にすると、ロシア版フェイスブックともいわれるSNS大手フコンタクチェのパーベル・ドゥロフ社長がプログラマーとして迎え入れたいと歓迎。一方、ロシア政府に近い政治アナリストのセルゲイ・マルコフは、政府系のテレビ局ロシア・トゥデイでスターのキャリアを積むべきだと言った。

 だが、安全保障問題の専門家で情報当局に人脈を持つアンドレイ・ソルダトフは、スノーデンは有名人として活動などできないとみる。「情報機関の完全な監視下に置かれる可能性が最も高い。野党系や独立系のメディアと自由に話すことは禁じられ、当局が政府主催のイベントやロシア・トゥデーの番組に使う形になるかもしれない」

「人権擁護」をアピール

 ロシアの当局者や主流メディアは一時亡命が決まる前から、スノーデンをアメリカに引き渡すべきではないと主張していた。強制送還を求める米政府の要請も、両国関係に悪影響が出るという米国務省の警告も、ソチ冬季五輪をボイコットするという脅しも、ロシア政府を動かすことはできなかった。

 ロシアの外交筋は、アメリカ側の「二重基準」と「偽善的」行動を非難した。ロシア側が特に不満だったのは、両国が犯罪者引き渡し協定を結び、互いに好ましからざる人物を交換できるようにするという提案をアメリカが無視したことだ。

 ロシア政府がテロリストと見なすチェチェン独立勢力の指導者イリヤス・アフマドフはアメリカに亡命し、現在も「安楽に暮らしている」と、国営放送の第1チャンネルは報道した。

 ロシア下院のアレクセイ・プシュコフ議員は、スノーデンの一時亡命を許可すればロシアのイメージアップになると、ツイッターで主張。「国際レベルでロシアが人権を守る側に回ったことをアピールできる」

 政治アナリストのユーリ・クルプノフは、スノーデンの滞在を許可したロシア政府は「米政府に復讐したのだ」と語る。この指摘の念頭にあるのは、マグニツキー法だ。ロシア内務省の汚職を告発した弁護士のセルゲイ・マグニツキーが刑務所で変死した事件に関連し、ロシア当局者を処罰する内容。12年にオバマ大統領が法案に署名して成立した。「ちょっとした嫌がらせだ」と、クルプノフは言う。「アメリカは人権を理由にわが国をたたいた。今度はこちらが人権でお返しする番だ」

 スノーデンにはロシアで「アメリカ人のいい友人が何人か」できたと、担当弁護士のアナトリー・クチェレナは言う。「新しいアメリカ人の友人たちは、彼専用のボディーガードを探すのを手伝ってくれた」
だが、彼らもスノーデンが注目と監視の対象になるのを防ぐことはできそうにない。

[2013年8月20日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ファイザー、通年見通し上方修正 第1四半期予想上回

ワールド

米コロンビア大などで300人逮捕、ガザ反戦デモ激化

ワールド

バイデン大統領、31万人に学生ローン免除 美術学校

ビジネス

英シェル、中国の電力市場から撤退 高収益事業に注力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中