最新記事

アメリカ政治

国防を議論できない共和党の野党ボケ

ヘーゲル長官の指名承認をめぐる公聴会で露呈した上院軍事委員会の有名無実化

2013年2月27日(水)15時02分
フレッド・カプラン

レッドパージさながら 「身内」のヘーゲルを攻撃した共和党の失態(先月31日の公聴会) Kevin Lamarque-Reuters

 共和党が昨年の大統領選以降、アメリカの国防政策を形作る役割も、真剣に議論する役割も放棄したことは分かっていた。しかしその無関心ぶりが、いよいよ有害の域に達しつつある。

 先月末に米上院軍事委員会の公聴会が開かれ、次期国防長官に指名されたチャック・ヘーゲル元上院議員の承認が審議された。しかし的外れの議論で浮かび上がったのは、ヘーゲルの資質というより、共和党と上院に国防問題を監督する能力が本当にあるのかという疑問だった。

 共和党員ながらリベラルな政治姿勢で知られるヘーゲルの指名をめぐり、公聴会が紛糾すること自体は予想されていた。しかし惨憺たる結果になったのは、ヘーゲルが精彩を欠いたからだけでなく、彼に質問する共和党議員の偏狭さのせいでもある。

 予算や陸軍の役割と使命、海軍の規模、アフガニスタンの今後、ヨーロッパからアジアへの「方向転換」など、次期国防長官が直面する問題に関する質問はないに等しかった。代わりに彼らはヘーゲルのイスラエルへの誠実さを問いただし、イランに十分な憎悪を抱いているかを確認して、07年のイラク増派に反対した判断を蒸し返した。

 指名承認の是非を問う上院軍事委員会の投票は重ねて延期され、先週ようやく承認された。上院の採決を経て新国務長官が誕生する。しかし先週の公聴会も、50年代のレッドパージを思い出させる偏執ぶりと扇動的な議論に終始した。

 ある共和党議員は、ヘーゲルが08年のアメリカ・アラブ反差別委員会で演説したことを持ち出し、反イスラエル的な発言をしていないかどうか当時の映像で確認するまで、公聴会を中断するべきだと主張した。

 ヘーゲルの資産に関する情報公開が不十分だとして、「サウジアラビアや北朝鮮からの資金提供ではない、と断言できる根拠がない」という批判は新人議員のものとはいえ、言い掛かりに近かった。それなのに共和党の幹部委員であるジム・インホフ上院議員は、イラン政府がヘーゲルの指名を「支持している」と援護射撃をした。

 インホフはさらに、イランのイスラム革命防衛隊をテロ組織に指定する法案や、イランへの一方的制裁にヘーゲルが反対票を投じたことを指摘した(イスラム革命防衛隊はテロ組織の定義に当てはまらず、一方的制裁は効果に疑問があった)。

 北朝鮮の核問題など、共和党議員が現実的な問題をただした数少ない場面も、彼ら自身の勉強不足は明らかだった。戦略核戦力のトライアド(戦略爆撃機、大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射ミサイルの3本柱)について十分に理解していない軍事委員の質問に、説得力はなかった。

「議論」のレベルではない

 古きよき時代を懐かしむつもりはないが、かつての上院軍事委員会には、軍事問題を理解しているという自負があった。

 確かに採決で意見が分かれることも、議論の前提で対立することもあった。しかし委員の大半は、少なくとも軍事問題を議論できるレベルや、完全に的外れな質問をしないレベルまで勉強していた。

 悲しいことに現在の軍事委員会には、何かを学ぼうという姿勢すらない。有権者が気にしない問題では愚かに見えても構わない、と言わんばかりだ。

 先週の公聴会でヘーゲルの指名が承認された後、民主党のカール・レビン上院軍事委員長は休会を宣言した。「皆さん、ご協力に感謝します。あと1年、良い年にしましょう」

 議員の間から笑い声が上がった。だが、とても笑っていられる状況ではない。

From the-diplomat.com

[2013年2月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局

ワールド

ポーランドの2つの空港が一時閉鎖、ロシアのウクライ

ワールド

タイとカンボジアが停戦に合意=カンボジア国防省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中