最新記事

米司法

米政府がビンラディンの死体写真を隠す理由

米政府は、グロテスクな死体の様子を公開すれば国外在住のアメリカ人が攻撃の標的にされると言うが

2011年9月29日(木)15時37分

真実はどこに パキスタン・ラホーレでビンラディンの殺害を報じる紙面(5月3日) Mohsin Raza-Reuters

 アメリカの保守系の行政監視団体「ジュディシャル・ウォッチ」が起こした情報公開請求に対して米司法省は、国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンの死体の写真とビデオ映像は公表できないという反論を裁判所に提出した。

 司法省は、52点に及ぶビンラディンの死体写真は機密情報にあたり、公表すれば国外に在住するアメリカ人への暴力行為を誘発するおそれがある、と述べている。米政府は、裁判所に写真公表の訴えを棄却するよう求めている。

 CIA(米中央情報局)のジョン・ベネット国家機密局長は、写真や映像について「致命傷の銃創も露わな死体の写真など、極めて生々しくグロテスクなもの」と、説明している。ベネットによれば、これらはパキスタン北部アボタバードの潜伏先で殺害した際や、アラビア海で水葬を行ったときに撮られたものだ。

 司法省の反論には、ビンラディン襲撃作戦を指揮したビル・マクレーベン少将の証言も添付されている。この中でマクレーベンは、写真や映像が公表されれば、「作戦に参加した特殊部隊とそのメンバーが、今後容易に判別されてしまう」と、述べている。

 ジュディシャル・ウォッチは、政府の言い分に反論する。団体のトム・フィットン会長は「公表できるものは常にあるはずだ」と言う。

 政治ニュースサイト「ポリティコ」は次のように伝える。


 ビンラディンの死体画像をめぐる訴訟については、情報公開の専門家の間でも意見が分かれている。伝統的に裁判所は、国家安全保障、特に情報公開に関する訴訟で行政の立場を尊重する傾向が強い。従って今回もそれ程の困難を伴わずに政府が勝つだろうという見方がある。

 しかし今回の政府側の主張にはこれまでの訴訟と比べて弱い部分がある、という専門家もいる。政府の主な主張は、本質的に画像が公表されると世論の政府に対するイメージが悪化するというものだからだ。


 ジュディシャル・ウォッチは、AP通信やポリティコなどと共に、政府に対してビンラディンの死体画像の公表を求めていた。

 この裁判が今年中に判決に到ることはなさそうだ。

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ

ワールド

パレスチナ支持の学生、米地裁判事が保釈命令 「赤狩
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中