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スヌーピー60年目に明かす作者秘話

チャーリー・ブラウンなどでおなじみの漫画『ピーナッツ』の生みの親、チャールズ・シュルツの知られざる素顔と制作秘話を妻ジーニーに聞いた

2010年10月4日(月)15時37分
小暮聡子(本誌記者)

アイデアの宝庫 シュルツ(左上)は「どうしたら面白い漫画になるか理解していた」と、妻ジーニーは語る(米カリフォルニア州サンタローザのチャールズ・シュルツ・ミュージアムにて) (左上)Photo by Jean Schulz courtesy of the Charles M. Schulz Museum and Research Center, Photo by Koichiro Hayashi ©2010 Peanuts Worldwide LLC

 10月2日、連載開始から60周年を迎えた漫画『ピーナッツ』。大人は一人も登場せず、口が達者な子供たちが失敗や不安に悩まされながら遊ぶ姿を描いたこの作品は、今も世界75カ国の2200紙以上で連載され、キャラクター商品の年商は20億ドルに達する。10年前に他界した作者チャールズ・シュルツの意外な素顔や制作秘話を、妻のジーニー・シュルツに聞いた。

*****


―シュルツはどんな人だったか。

 仕事にとりつかれているようだった。それはもう、想像を絶する熱中ぶりだった。考えているのは、いつも漫画のことばかり。車に乗っていても無口なときは、キャラクターのことを考えているとすぐに分かった。仲の良い友人とホッケーやテニスをするのも好きだったけど、何をするにも真剣勝負。あくまでも勝つことにこだわった。

―シュルツは50年近い間、アシスタントも使わずに1人で毎日漫画を描き続けた。

 彼はとにかく漫画が好きだった。どうしたら面白くできるか理解していた。競争心がとても強く、(数人の漫画家が交代で連載する)新聞ページで一番面白い漫画を描きたいと思っていた。日曜版などに掲載される他の漫画家の作品を見て、「おい、どうして彼はこんなにどうしようもない漫画を描けるんだ? 私は自分の作品がとても誇らしいよ」と言っていた。

―シュルツの一番お気に入りのキャラクターは?

 全部好きだったけど、自分にアイデアを与えてくれないキャラクターたちは消えていった。チャーリー・ブラウンは好きだとよく言っていた。近所にいたらいい友達になれそうだと。

 スヌーピーのこともよく話していた。スヌーピーは想像力をかきたてるから、毎日でも描けると。ただし、そうなると(スヌーピーの存在感が大きくなりすぎて)『ピーナッツ』の物語全体を支配しかねない。だから、他のキャラクターとのバランスを保つよう注意しなくてはいけないと言っていた。

 スヌーピーは、誰もが持っている想像力を投影した存在だと思う。私たちは皆、実際には怖くてできないことでも、できると想像したい。実際にやるのは嫌だし、危険を冒したくはないんだけど。でも、スヌーピーはリスクを恐れない。自分の殻を破って何でもやってみる。

―今年、『ピーナッツ』のライセンスを管理するユナイテッド・メディア社をアイコニックス・ブランド・グループが買収した際、あなたを含めたシュルツの遺族がライセンス資産の20%を買い取った。シュルツも生前、ライセンス獲得を望んでいたのか。

 スパーキー(シュルツの愛称)は70年代後半、(作家としての権利をめぐって)ユナイテッド・メディアと対立したことがあった。当時、ライセンスを買い取る話も出たが、彼は自分でライセンス事業なんてやりたくなかった。

 結局、「自分の権利を認めてくれないならもう描かない」と宣言して、自分が描くことをやめた後に第三者が創作を引き継ぐことを認めない権利や、キャラクター商品などに使われる絵を自分で管理する権利を認めさせた。スパーキーが亡くなってからは、私たち遺族がこの権利を引き継いだ。

―その権利のおかげで、シュルツの死後に「続編」が勝手に作られることもなかった。しかし新しい漫画が描かれないという状況で、今後どう事業を展開していくのか。

 若い世代のファンとの接点を広げていくには、新しいメディアの活用が欠かせない。そうしたメディアは(新聞で連載する)漫画とは違うけれど、キャラクターの世界観を壊さない限り、これまでの作品を再び生かす手段になり得る。50年分の作品があるのだから、材料には事欠かない。

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