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オバマは堂々とメディアと決別せよ

アメリカの主要メディアはオバマに愛想を尽かした──それはオバマ政権にとって救いとなる朗報だ

2010年4月23日(金)13時36分
ハワード・ファインマン(ワシントン支局)

 ホワイトハウスのロバート・ギブス大統領報道官は先日、定例記者会見に50分遅れた。遅刻の最長記録だが、待機していた記者は誰一人怒りを見せなかった。いつ始まろうと、ろくに質問する気もなかったからだ。

 報道官のボスであるバラク・オバマ大統領はミズーリ州でいつもどおり医療保険制度改革について熱弁を振るっていたが、CNNなどによる中継はなかった。大統領にとって、批判より怖いのは報道されないことだ。しかしメディアは、もうオバマに飽きてしまった。

 主要メディアはかつての英雄に愛想を尽かし、興味さえ失っている。オバマは、FOXニュースやウォールストリート・ジャーナルなどの保守系メディアとは最初から馬が合わない。左派系のブログにも、とっくに見切りをつけられている。

 中立を標榜してきた主要メディアも、ついに大統領に愛想を尽かす理由を見つけた。オバマは役に立たないし、ゲームのやり方を知らず、何一つやり遂げていない。その証拠が、たなざらしの医療保険制度改革法案だ。

 とはいえ、メディアに愛想を尽かされたことは、オバマにとって悪い話ではあるまい。主要メディアとの決別こそ、今の彼に必要なことだ。この破局はオバマ政権の救いとなり得る。なぜか。

 1つには、メディアを信用している人などほとんどいないからだ。最新の世論調査によれば、マスコミに対する市民の信頼度は最低で、銀行や労働組合、保険会社や議会と同レベルだった。メディアに攻撃されたら、それは何か国民のためになることをしている証拠と思ったほうがいい。

 このからくりは、ビル・クリントン元大統領の場合にも当てはまる。98年のモニカ・ルインスキー事件当時の世論調査によれば、有権者はクリントンの行為に愕然とする以上に、つまらないスキャンダルを深追いするメディアに嫌悪感を抱いていた。

メディアは友人ではない

 オバマは、われわれメディアが書いたり言ったりすることを気にするのをやめるべきだろう。まずは、記者は友達だという心地よい幻想を捨てる。

 メディアがオバマに好意的な解釈をするなどと期待するのは間違っている。われわれは平気で発言をねじ曲げる。友人としては頼りがいがなく、最低だ。世論の風向きをうかがい、支持率が下がれば走り去る。

 それでもオバマは、今まで主要メディアを自分の支持基盤の1つと信じてきた。ついでに自分自身もメディアの世界の住人(つまりは作家や評論家、知識人の仲間)だと思っているらしい。

 そんなオバマが毎日何を読んでいるのか、ホワイトハウスに尋ねたら、以下のリストが返ってきた。ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォールストリート・ジャーナル、シカゴ・トリビューン、シカゴ・サンタイムズ、ニューズウィーク、タイム、アトランティック、ニューヨーカー、フォーリン・アフェアーズ、スポーツ・イラストレイテッド、そしてスポーツサイトのESPNドットコム。「要するに、山ほど読んでいる」と言われた。多過ぎる、と私は言いたい。

 なるほど。どうやらこの大統領は「学者ぶって」いるのではなく、ジャーナリストを気取っているらしい。彼はもはやシカゴの貧しいスラム街から発想する活動家ではなく、ニューヨーク・タイムズの論説ページから発想する政治家になってしまった。そこの保守系コラムニストたちの気を引く作戦でも立てているのだろう。

 だが本物の保守派は、ニューヨーク・タイムズに書くような「保守系」を信用していない。有権者の大半も、そんなページは読まない。有権者が気にするのは個々の政策の中身と方法であって、その理屈ではないからだ。

対処法をマスターせよ

 一方、ワシントンの政治記者たちが気にするのは別のことだ。一般論として、大統領が誰でもメディアの報道姿勢には一定の波がある。それに早く気付き、しかるべき対応をできれば、オバマはメディアに対して優位に立てる。

 われわれは今、オバマ政権の人事に注目する時期に入ったところだ。まずは誰が政権を去り、誰が残るか。お次は中間選挙の厳しい戦いを追い掛け、選挙が終われば敗北の原因を問い掛ける。そして、運よくオバマが生まれ変われるかどうかに注目する。

 もちろんオバマは、こうしたメディアの習性に気付き、対応し始めている。冒頭に触れたミズーリ州での演説も、医療改革案の説明としては最高の出来だった。

 あの日、メディアの取材は少なかったが、それでいい。テレビカメラはなくても、有権者(オバマが一番大事にすべき相手)は聞きに来ていたのだから。

[2010年3月24日号掲載]

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