最新記事

米政治

オバマはモーツァルトになれない

やり方も分からず何にでも手を出す民主党政権と議会に国民は辟易している

2010年1月29日(金)13時36分
ジョージ・ウィル(本誌コラムニスト)

 うら若き青年が、モーツァルトに交響曲の作り方を尋ねたときのこと。まだ青二才と見て取ったモーツァルトは、まずはバラードから勉強すべしと忠告した。

 すると青年は不満そうに、「でも、あなたはたった10歳で交響曲を書いた」。答えてモーツァルトいわく、「だが私は、誰にも教えを請わなかった」。

 今週、すっかりアメリカ政界のモーツァルト気取りの男がノルウェーの首都オスロに飛び、栄えあるノーベル賞の授賞式に臨む。米大統領バラク・オバマの平和賞は、その演説の素晴らしさ故に贈られたもの。受賞演説も、さぞや感動的なものとなるだろう。

 それが終わると、オバマはデンマークのコペンハーゲンに移動する。今年10月、IOC(国際オリンピック委員会)総会でスピーチし、地元シカゴでの夏季五輪開催を訴えた因縁の場所だ(結果は思い出したくもない)。

 今回の訪問は、192カ国の首脳級が集まる国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)に出席するため。今回のオバマは、ある不都合な真実を率直に語らなければならない。オバマは昨年の大統領選で、世界の海面上昇を阻止すると約束した。そして地球温暖化は重大な問題であり、しかもアメリカには相当な責任があると説いた。しかしその後のアメリカでは、この2つの大前提に対する支持が大幅に下がっている。

 大統領の言動や、与党・民主党が仕切る議会の動きを見るにつけ、国民は判断を変えた。今はこう思っている。確かに温暖化は差し迫った脅威だが、医療保険制度改革ほど緊急の問題ではない、と。

 今年10月、イランがウラン濃縮の問題で一定の譲歩とも取れる曖昧な発表をしたとき、オバマはそれを大いに称賛した。イラン敵視をやめ、積極的に関与するという自分の政策は正しかったと言わんばかりに。

 だがイランはすぐに「約束」を撤回した。この10年間ずっと昼寝していた人間を除けば、誰も驚かなかった。11月には、病的なほど楽観的だった国際原子力機関(IAEA)のモハメド・エルバラダイ事務局長でさえ、イランの核計画を透明化する試みが「行き詰まった」と認めている。

 その翌日、IAEAはイランを非難する声明を発表。その2日後にイランは10カ所のウラン濃縮施設を新設すると発表した。オバマ政権は時間切れが迫っているとイランに警告を発したが、イランが動じる気配はない。

疲れ果てたアメリカ人

 NATO(北大西洋条約機構)の発足間もない頃、ある軍人がNATOの目的は「ロシアを締め出し、アメリカを受け入れ、ドイツを抑え込んで」西ヨーロッパを守ることにあると語った。そのNATOが今、アフガニスタンに出向いて戦争をしている。

 NATO加盟国の世論は今もオバマを崇拝しているが、アフガニスタン戦争はほとんど支持していない。カナダとオランダ、そしてもしかするとドイツもアフガニスタンから兵力を引き揚げるだろうが、それを上回る兵力を他のNATO諸国が出せるだろうか。ついでに言えば、オバマのアフガニスタン増派がナンシー・ペロシ米下院議長率いる民主党幹部会で過半数の支持を得られる保証もない。

 アメリカ人は疲れ果てて嫌気が差している。オバマと議会が野心的なアジェンダ(検討課題)を次々と持ち込むことに、誰もが不安を覚え、不快感さえ抱いている。すべてを性急に進めようとするのは自信過剰の表れであり、やり方も分からず何にでも手を出している現実を覆い隠す演技でもある。

 共和党のラマー・アレグザンダー上院議員は、テネシー州知事やテネシー大学学長を歴任し、党内穏健派のかがみと目されている人物だ。それだけに最近のアレグザンダーのコメントは注目に値する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米上院、トランプ氏の対イラン戦争権限制限案を否決 

ビジネス

米経済活動、7地区で緩やかな拡大 見通しは全体に楽

ワールド

トランプ氏、FRB次期議長にウォーシュ氏正式指名 

ワールド

米国防総省、重要鉱物の国内供給強化へ提案要請 イラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 7
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中