最新記事

環境

温暖化なんて関係ねぇ!の国

人為的な気候変動を信じないアメリカ人が増えた本当の理由

2009年12月17日(木)17時36分
ジェニーン・インターランディ

所詮は他人事? 多くの人は地球の未来を心配する余裕を失っている(写真はメキシコの米大使館前で抗議活動をする環境保護団体グリーンピースのメンバー、12月16日) Eliana Aponte-Reuters

 ピュー・リサーチセンターは今年10月、人間が原因で地球温暖化が進行しているという説が真実だと信じるアメリカ人が昨年より14%減少したとの調査結果を発表した。ニュー・リパブリック誌のエド・キルゴア特派員は、その原因について興味深い分析をしている。

 キルゴアは、人為的な温暖化を信じないアメリカ人が増えた原因として3つの要素を挙げている。まず、昨今の経済危機。次にオバマ政権誕生にともなう共和党の急進化。そして、「議論を支配し、潮目を変えようとする環境右派の強硬派の必死の取り組み」だ(人為的な地球温暖化説を否定するデータを科学者らが隠蔽しようとした「クライメートゲート」疑惑に飛びついたのも、その一例だ)。

 もっとも、原因になった可能性のある要素はほかにもある。アメリカ人は地球温暖化を信じなくなったのではなく、温暖化などどうでもいいと思っている可能性だ。

 キルゴアも、経済危機の明白な影響は国家としての優先順位の変化に表れていると指摘している。簡単に言えば、失業の恐怖に震えているときに地球の未来を心配するのは無理なのだ。

 キルゴアが引用したギャロップ社の世論調査によれば、豊かな時代にはアメリカ人も経済成長より環境を優先すると答えていた(少なくとも建前上は)。だが、本音と建前が食い違うのはよくあること。結局のところ、1〜2世代以上先の地球の運命を気にしている人はほとんどいないと思う(2世代先でもかなり無理がある)。

氷河の溶解も干ばつも自分には無関係

 もちろん、そんなことは誰も大声で言いたがらない。「地球温暖化は問題だと思うが、自分が被害を受けるわけではないから関係ない」と言うに等しいからだ。身勝手に聞こえるし、実際、身勝手だ。だから、代わりに「温暖化が真実かどうか確信がもてない」とか「手の込んだでっち上げだ」と主張する。

 もちろん、反論があることは私も承知している。まず、アメリカの環境保護主義者は長年、子孫のために地球を守ることを優先課題に掲げ、ある程度の成果も挙げてきた(オゾン層の穴は塞がれたんだっけ?)。

 だが問題は、ほとんどの人は環境保護主義者でないこと。私たちの多くはいまだに白熱灯を使っているし、携帯電話の充電器は常にコンセントに差したまま。歯を磨くときも水を出しっ放しにしている。

 地球温暖化は遠い未来の脅威ではなく、いまここにいる人間に災いをもたらすものだという反論もあるだろう。確かに、氷河の融解によって海面が上昇し、人々が家を失っているボリビアや、長引く干ばつで農作物や家畜に甚大な被害が出ているソマリアではその通りだ。

 だが、アメリカには食糧も水もふんだんにあり、海岸沿いの豪邸は今も輝く海を見下ろして佇んでいる。そうした豪邸が水に沈むようになって初めて、地球温暖化を訴える科学者の声にももう少し説得力が感じられるのだろう。
 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

3月のスーパー販売額は前年比9.3%増=日本チェー

ビジネス

仏ルノー、第1四半期売上高は1.8%増 金融事業好

ビジネス

日経平均は続伸、米ハイテク株高が支援 一巡後は伸び

ワールド

シンガポール3月コアCPI、前年比+3.1%に鈍化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中