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ゾンビ襲来!国際政治はいかに戦うか

2009年8月20日(木)18時52分
ダニエル・ドレスナー(タフツ大学教授)

 それどころか、構成主義者なら「ゾンビ問題は人類がそれをどう解釈するかにかかっている」と言い出すかもしれない。つまりゾンビの出現に対応して生まれる新しい規範はさまざまな形を取りうるということだ。映画によくあるような人間とゾンビの殺しあい(ホッブズの言う『万人の万人に対する戦争状態』だ)を是とする考えが生まれるかもしれない。また人類は結束し、世界的国家の建設に向かうべきだというカント的な考えが生まれる可能性もある。

 残念ながら、構成主義者が「規範カスケード」を予言する可能性もあると思う。ゾンビの「生活様式」を受け入れる人が増えるにつれ、残った人類もそれに従うべきだという社会的圧力を感じ、ゾンビの規範や行動を内面化してしまうということだ。最終的には人類もゾンビ的な善悪の概念を受け入れ、ゾンビのような恐ろしいうなり声を上げるようになるかもしれない。

ネオコンならゾンビ国に侵攻

 さて新保守主義が体系的な政治理論かどうかについては議論があるが、ここではひとつの宣伝理論であると仮定しよう。ネオコンに属する人々なら、ゾンビの脅威は人類の生活様式に対する実存的な脅威だと認識するかもしれない。そして「人類が互いの脳みそを共食いしない自由をもつがゆえに、ゾンビは人類を憎悪する」と主張するだろう。

 脅威そのものが実存的であろうと、脅威への順応や理解は選択肢には入っていない。それどころか、ネオコンならすぐに「人類の覇権」を守るための攻撃的な対応に取り掛かるだろう。

 その対応とはゾンビが支配する地域の中心的な国家を侵略し、占領することだ。そうすれば、周辺の国々の人類の間でゾンビの支配を打破すべく決起しようという機運が高まるはず、という論法だ。

 実現不可能なシナリオだとは言うまい。だが「任務は遂行された」との横断幕が掲げられるや、新たなゾンビが這い出てきて占領部隊を先の見えない血みどろの泥沼へと引きずり込むという結末のほうが可能性は高いはずだ。

 筆者としては2レベルゲーム分析などを用いてこの問題をもっと論じてみたいところだが、残念なことにもう時間がない。読者の皆さんも、いろいろな理論を用いてゾンビの国際政治への影響について解析してみては?


Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 20/8/2009. © 2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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