最新記事

米メディア

オバマびいき報道の危うさ

メディアは政権監視の役割を放棄し、重要課題の検証もなおざり

2009年7月13日(月)15時53分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

ファンの集い ホワイトハウスで記者の質問に答えるオバマ大統領。メディアはオバマの隠れ応援団だ Jason Reed-Reuters

 バラク・オバマ米大統領をめぐる報道が好意的なものばかりだという話は、あまりメディアでは語られていない。ジョン・F・ケネディ以降、こんなにメディアに愛された大統領がいただろうか。こうした現象はアメリカにとって好ましいとは言えない。

 大統領の権力がきちんと監視されてこそ政治は正しく機能する。だがオバマに対するチェックは緩い。リーダー不在で混乱している共和党は効果的な対抗勢力たり得ていないし、メディアは国内政策に関する限り、懐疑的な監視役という役割をほとんど放棄している。

 ピュー・リサーチセンターが行った研究によれば、メディアのオバマびいきの傾向は大統領選挙中に始まった。そして就任後も「オバマ大統領の扱われ方は政権初期のビル・クリントンやジョージ・W・ブッシュと比べてずっと好意的だ」という。

 この研究ではワシントン・ポスト紙、ニューヨーク・タイムズ紙、テレビの3大ネットワーク、公共テレビ局(PBS)、および本誌の1261本の報道を検証。その結果、オバマに好意的なものが42%だったのに対し、批判的なものの割合は20%だった。ブッシュ(好意的は22%)やクリントン(同27%)とは対照的だ。

 報道の内容にも違いがある。オバマの場合は人柄や指導力を扱うものが44%を占め、ブッシュ(22%)やクリントン(26%)のほぼ2倍で、政策に関するものはそれより少なかったという。

 インターネットのニュースサイトなどに調査対象を広げても、結果に大差はなかった。ジョージ・メイスン大学が行った別の調査でも同様の結果が出た。

 この傾向には問題がある。オバマが医療保険への補助拡大や移民制度の見直しなど非常に野心的な政策を掲げているからだ。彼はリンドン・ジョンソン以来の「大きな政府」を構想している。

主張は矛盾だらけなのに

 議会予算局の試算では、連邦予算のGDP(国内総生産)比は08年の21%から19年には25%近くに上昇する見込み。これは第二次大戦後の平均を大きく上回る。しかもベビーブーム世代の退職が本格化するのはその後だ。

 改革がすべて成功するとは限らないし、かえって問題を引き起こす場合もある。ジョンソンがケネディから引き継いだ経済政策は70年代にスタグフレーション(不況下のインフレ)を招いた。メディアは政権に対し敵対的になるべきではないが、懐疑的な姿勢は保つべきだ。

 にもかかわらず、オバマに「批判的な」報道といえば民主党議員との戦術的な対立や一部の支持基盤からの批判止まり。重要課題の検証は軽視されている。

 オバマの主張には矛盾が多い。財政支出の拡大を要求する一方で医療費抑制を唱え、財政赤字が拡大基調にある中で財政規律を回復すると言う。そんな矛盾だらけの主張を、メディアは額面どおりに受け取っているように見える。

 こうしたオバマびいきの理由ははっきりしない。メディアは世論に弱いから、支持率の高い大統領は好意的に扱われる。ピュー・リサーチセンターによればオバマの支持率は63%だが、それだけではメディアとの蜜月が選挙中に始まっていたことを説明できない。

 もっと深くて単純な理由も考えられる。報道関係者の多くがオバマのファンであるという事実だ。弁舌は巧みだし、ブッシュ時代の後では一服の清涼剤のような存在でもある。政策課題も支持されているし、それに史上初のアフリカ系大統領が失敗するところなど、できれば見たくはない。

 ともあれ「巨大な政府」がオバマの個人的な人気の上に築かれようとしている。メディアはオバマの隠れ応援団になり、現実に向き合うことを避けている。当然ながら、前述のピュー・リサーチセンターの研究について伝えた報道はほとんどなかった。     

[2009年6月17日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、メキシコ産トマトの大半に約17%関税 合意離脱

ワールド

米、輸入ドローン・ポリシリコン巡る安保調査開始=商

ワールド

事故調査まだ終わらずとエアインディアCEO、報告書

ビジネス

スタバ、北米で出社義務を週4日に拡大へ=CEO
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中