最新記事
生成AI

AIの未来を担う男、アルトマンの「正体」ー彼に人類の未来を託して本当にいいのか?

WILL ALTMAN DELIVER?

2024年2月1日(木)12時02分
サム・ポトリッキオ(ジョージタウン大学教授、本誌コラムニスト)

240206p18_eac01.jpg

この論文とアンソロピックの設立は、AI開発における「効果的利他主義(EA)」を最も簡潔に表しているかもしれない。

EAは、AIは人類に利益をもたらす存在であるべきだとする。

倫理的な安全制御にも細心の注意を払う。

彼らも技術革新と進歩を目指すが、社会的な安全性と技術の進歩のどちらを選ぶかとなれば、考えるまでもなく常に前者を優先させる。

一方で、より利益志向の強いアルトマンの考え方は、迅速な技術革新を重視してAI製品の商業化を推し進める「効果的加速主義」の最たる例だ。

彼らは安全制御が必要であることは理解しつつ、商業的な目的と人類の安全との間で綱渡りのようにバランスを取ろうとする。

今は明らかに効果的加速主義が優勢だ。

市場(マイクロソフトも)と開発チームと社外の重鎮たちはアルトマンを支持している。

オープンAIの新しい理事会にはラリー・サマーズ元財務長官も加わった。

ハーバード大学の元学長で著名な経済学者でもあり、まさにエスタブリッシュメントだ。

ビル・クリントンとバラク・オバマ両政権で実質的に経済を運営した人物が、アルトマンに太鼓判を押しているのだ。

結局のところ、ジョブズやゲイツのときと同じように、世界征服を目指す主要なAIプレーヤー(メタのマーク・ザッカーバーグ、グーグルのセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、さらにはマスク)とオープンAIが一線を画すことができるかどうかは、アルトマン自身に懸かっている。

アルトマンは解任されたことを、父親の死を知ったときのような「予想外の混乱と喪失感」だったと語った。

もっとも、彼が騒動を通じて見せたかったのは、自分は「ハリケーンの中心に立つのがうまく」、うまくいかないときも、冷静さを失わずに思慮深い決断を下せるというところだろう。

そのようなときに思慮深い決断を下せることこそ、AI時代に人間が必要とする力ではある。

今はアルトマンが「AIの顔」だ。彼に人類の未来を託して本当にいいのかどうかは、また別の話なのだろうが。

ニューズウィーク日本版 世界も「老害」戦争
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月25日号(11月18日発売)は「世界も『老害』戦争」特集。アメリカやヨーロッパでも若者が高齢者の「犠牲」に

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

仏ケリング、成長回復に店舗網縮小と「グッチ」依存低

ワールド

米、台湾への7億ドル相当の防空ミサイルシステム売却

ワールド

日中局長協議、反論し適切な対応強く求めた=官房長官

ワールド

マスク氏、ホワイトハウス夕食会に出席 トランプ氏と
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 10
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中