最新記事

医療

知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える

2022年12月22日(木)15時10分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
緩和ケア

写真はイメージです KatarzynaBialasiewicz-iStock.

<実は「ほとんどの方の死に苦しみはない」と、奈良県立医科大学附属病院の緩和ケアセンター長、四宮敏章氏は言う。穏やかな最期を迎えるためには何が必要か。緩和ケア医療の最前線から分かっていることとは>

誰もが苦しまずに最期を迎えたいと思うだろう。しかし、どうしたら安らかな「死」を迎えられるのかは、あまり知られていない。

痛みや苦しみをやわらげ、最期まで穏やかに過ごすための医療である「緩和ケア」が果たす役割とは何か。その知識は、あなたらしい生き方を貫徹するために、今からでも頭の中に入れておきたいものだ。

奈良県立医科大学附属病院で緩和ケアセンター長を務め、現役YouTuberでもある四宮敏章氏が、これまでベールに包まれていた死の現実を分かりやすく解説。このたび、『また、あちらで会いましょう――人生最期の1週間を受け入れる方法』(かんき出版)を上梓した。

ここでは本書から一部を抜粋・再編集して掲載する(この記事は抜粋第1回)。

※抜粋第2回はこちら:「がんになって初めて、こんなに幸せ」 50代看護師は病を得て人生を切り開いた
※抜粋第3回はこちら:がん患者や遺族の誰にでも起こり得る「記念日反応」とは何か

◇ ◇ ◇

人が亡くなるまでの1週間

どんな人でも、自分が死んでいくことを想像することは容易ではないと思います。どんな苦しみが待っているのか、それに自分は耐えられるのだろうか、と思うからではないでしょうか。私も以前はそうでした。

しかし、ホスピス医となり、3000人以上の方を見送ってきた経験から、「ほとんどの方の死に苦しみはない」と言うことができます。

私が見送った方々の最期の表情はとても穏やかで、どこか笑顔さえ浮かべている人も少なくありませんでした。

何度も繰り返しますが、適切な症状緩和ができると、ほとんどの患者さんの最期はとても穏やかなのです。このことは本当にそうなのです。

ここまで、がん患者さんが亡くなるまでの1週間、どのようなプロセスをたどるのかについてお話しました。この節では、さらに進んで、人は最期にどのように亡くなっていくのか、亡くなる直前はどのようなプロセスをたどるのかについて書いていきたいと思います。

多くの進行がん患者さんは、抗がん剤治療を行います。しかし、抗がん剤の効果がなくなり、治療医から積極的抗がん治療終了の話をされると思います。

その時点では、まだ患者さんは元気です。もし弱っている場合でも、それは抗がん剤の副作用や痛みなどの、がんの症状があるためで、それらの症状をしっかり緩和できれば、また元気になる人が多いのです。

下の図を見てください。これは、がん患者さんの体調や日常的動作の自然経過を示しています。抗がん治療が終わってしばらく経っても、がん患者さんは、比較的元気に過ごします。

ところが、亡くなる1~2カ月くらい前から、病状は急速に悪化し、体調も目に見えて悪くなっていきます。このことを、私たち緩和ケアを行う医療者の間では、「週単位での変化」という言い方をします。病状や体調が、1週間前と比べて大きく変わっている、という意味です。

そして亡くなる1週間前になると、「日単位での変化」になってきます。毎日、状態が変わっていくのです。変化のスピードが速くなります。そして、亡くなる1〜2日前になると「時間単位での変化」になってきて、特徴的な症状が現れます。

achirabook20221222-1-chart.png

『また、あちらで会いましょう』69ページより

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

仏ルノー、上期112億ドルのノンキャッシュ損失計上

ワールド

上半期の訪タイ観光客、前年比4.6%減少 中銀が通

ワールド

韓国の尹前大統領、特別検察官の聴取に応じず

ビジネス

消費者態度指数、6月は+1.7ポイント 基調判断を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とんでもないモノ」に仰天
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    「パイロットとCAが...」暴露動画が示した「機内での…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    顧客の経営課題に寄り添う──「経営のプロ」の視点を…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中