最新記事

医療

がん患者や遺族の誰にでも起こり得る「記念日反応」とは何か

2023年1月21日(土)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
がんサバイバー

写真はイメージです bymuratdeniz-iStock.

<重い病気を宣告されたとき、大切な人を亡くしたとき――。人はそうしたつらい日の記憶も特別な日として、脳に焼き付けてしまう。時にはそれが「反応」として出てしまうこともあるという。どう対処すればいいのか>

喪失の悲しみや、つらい経験も、ハッピーな記憶と同じくらい、強い印象を残すようだ。それは日付だけでなく、そのときの場所や情景とも紐づいて、記憶をかき乱す。

しかし、それは誰にでも起こり得る「反応」。その反応に対して、事前にそうした反応があること、さらにその対処法を知っておけば、自分自身で対処できると奈良県立医科大学附属病院緩和ケアセンター長の四宮敏章は話す。

これまでに3000人以上を看取った四宮氏はこのたび、悔いなく穏やかな最期を迎えるためのヒントを『また、あちらで会いましょう――人生最期の1週間を受け入れる方法』(かんき出版)をまとめた。

本書から一部を抜粋・再編集して掲載する(この記事は抜粋第3回)。

※抜粋第1回はこちら:知られざる「人が亡くなる直前のプロセス」を、3000人以上を看取ったホスピス医が教える
※抜粋第2回はこちら:「がんになって初めて、こんなに幸せ」 50代看護師は病を得て人生を切り開いた

◇ ◇ ◇

つらい思い出は簡単には癒えない

結婚記念日、誕生日、喜寿のお祝い......。特別な記念日はハッピーなものがほとんどです。しかし、がん患者さんやそのご家族にとって、つらい特別な日もあります。

がん患者さんにとっては、がんを初めて告知された日はとてもつらい日です。遺族にとっては大事な人が亡くなった日は悲しい日です。このような特別な日にとてもつらくなったり、しんどくなったりすることを「記念日反応」といいます。アニバーサリー反応ともいいます。何年経ってもその日が来ると、つらく寂しい気持ちになる方も多いのです。

ある乳がんサバイバー(乳がん体験者)の方は、クリスマスイブの日にがんと告知されたそうです。毎年クリスマスの日になると、みんながうれしそうに買い物などをしているのを見るのがつらいと打ち明けてくれました。がんを告知されたそのときの情景をどうしても思い出してしまうからだそうです。

過去の思い出を呼び覚ますものに触れたときにも、つらくなったり、気分が悪くなったり、身体の不調を起こしたりします。

遺族の方だと、亡くなった大切な人との思い出が多い時期に、精神的に落ち込んだり、感情が不安定になったり、体調を壊したりします。

こうした記念日反応は病気ではありません。つらい体験をしたり、大切な人を失うという大きな出来事の際には、誰にも起こり得る自然な反応なのです。

緩和ケア外来と遺族外来をしていると、本当にたくさんの患者さん、ご家族が記念日反応を起こしているのを目にします。記念日反応は決して珍しいものではありません。しかも遺族のなかでは、大切な人が亡くなって、何年、何十年経っても、命日の頃に思い出して気持ちがつらくなる、という方も多くいます。こうした感情は、人間としてごく当たり前のものだと覚えておいてください。

記念日反応があることを知らないでいると、なぜこんなに急につらくなるのだろう、なんでいきなりこんなに悲しくなるのだろうと思い、どんどん落ち込んでしまう人もいるからです。

記念日反応の最大の対処法は、「記念日反応は誰でも起こりうるもの、自分にも起こるものだ」ということを知り、恐れないことなのです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

第1四半期の中国スマホ販売、アップル19%減、ファ

ビジネス

英財政赤字、昨年度は公式予測上回る スナク政権に痛

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月速報値は51.4に急上昇 

ワールド

独、スパイ容疑で極右政党欧州議員スタッフ逮捕 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中