最新記事

宇宙探査

太陽圏の境界を三次元でマップ化することに世界で初めて成功

2021年6月25日(金)18時15分
松岡由希子
太陽圏(ヘリオスフィア)

2018年11月にはボイジャー2号が「ヘリオポーズ(太陽圏界面)」を通過し話題となった NASA/JPL-Caltech

<太陽圏観測衛星IBEXは、太陽系と星間宇宙との境界付近の地図の作成を目的として2008年に打ち上げられていたが、太陽圏の境界を三次元でマップ化することに成功した>

太陽圏(ヘリオスフィア)とは、太陽から吹き出す極めて高温で電離した粒子「太陽風」で生成される太陽系の周囲の泡であり、有害な星間放射から地球を守る役割を担っている。

太陽風は星間物質と相互作用すると減速しはじめる。この地点を「末端衝撃波面」といい、低速度の太陽風と星間物質が混じり合う領域「ヘリオシース」を経て、太陽風と星間物質との圧力が均衡となって完全に混じり合う境界面「ヘリオポーズ」に達する。

太陽圏観測衛星IBEXは、2008年に打ち上げられていた

アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽圏観測衛星IBEXは、太陽系と星間宇宙との境界付近の地図の作成を目的として2008年に打ち上げられ、ヘリオシースから飛来する粒子を観測している。

米ロスアラモス国立研究所(LANL)の研究チームは、太陽圏観測衛星IBEXが2009年から2019年までの太陽活動周期にわたって収集した観測データを用い、太陽圏の境界を三次元でマップ化することに世界で初めて成功した。

一連の研究成果は、2021年6月10日、学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」で発表されている。

太陽圏観測衛星IBEXはエネルギー中性原子を検知

太陽風からの粒子と星間風からの粒子が衝突すると、エネルギー中性原子(ENA)が生成される。太陽圏観測衛星IBEXは、これらのエネルギー中性原子を検知している。太陽風の強さは一様でなく、2〜6年後に返ってくるエネルギー中性原子の信号は、衝突時の太陽風の強さによって変動する。

研究チームは、太陽風とエネルギー中性原子の信号の強弱のパターンが同じであることに着目。コウモリが超音波を発してその反響により物体の距離や方向、大きさなどを把握する「反響定位」の手法を応用し、エネルギー中性原子の信号の時間差をもとにエネルギー中性原子の発生源の距離を算出し、マップ化した。

heliosphere-gif.gif

(太陽圏の境界を三次元で表わしたこのマップ:Los Alamos National Laboratory)


研究チームが作成したマップによると、太陽からヘリオポーズまでの最短距離は110〜120AU(天文単位:約165億キロ〜180億キロ)で、反対方向には350AU(約525億キロ)以上伸びている。

研究チームでは、太陽圏の境界を三次元で表わしたこのマップが「太陽風と星間物質がどのように相互作用しているか」のさらなる解明に役立つと期待を寄せている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米雇用統計、4月予想上回る17.7万人増 失業率4

ワールド

ドイツ情報機関、極右政党AfDを「過激派」に指定

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中