最新記事

メンタルヘルス

先延ばしをする人は、なぜ自分を「完璧主義者」と言いたがるのか?

2023年1月28日(土)09時51分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
完璧主義者

ThomasVogel-iStock

<本物の完璧主義者は、達成不能な高い目標を掲げすぎて苦しんでいる。他方、単なる先延ばし人間は、衝動に負けやすいという特徴をもつ>

先延ばしは遺伝要素があるとはいえ、環境要因も大きい。「先延ばし研究」の世界的権威が、DNA解析、脳科学、進化生物学、心理学など膨大な研究をメタ分析し、人類永遠の課題を科学的に解き明かした『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(CCCメディアハウス)より抜粋。

◇ ◇ ◇


一般に、先延ばしをする人は完璧主義者なのだとよく言われる。自分に課す基準が高すぎて、その理想に届かないのがいやで、課題に手をつけられない、というわけだ。

この「先延ばし人間=完璧主義者」説は、説得力がありそうに聞こえるし、耳に心地がいい。おおむね、完璧主義は好ましい資質とみなされているからだ。「あなたの最大の欠点は?」という問いに、あなたはどう答えるだろう? 

アメリカの視聴者チャレンジ型のテレビ番組『アプレンティス』で優勝を目前にしていたビル・ランチックという男性は、こう答えた。

「ぼくは完璧主義すぎるんです。それが欠点ですね」。そう言われれば、相手はこう言わないわけにいかない。「いや、完璧主義はいいことですよ。高い理想に向けて努力し続けるのですから」

しかし、「先延ばし人間=完璧主義者」説にはデータの裏づけがない。この点は先延ばし研究の分野で最も詳しく研究がなされているテーマで、これまでに何万人もの人を対象に調査がおこなわれている。

そうした研究結果を見る限り、完璧主義と先延ばしの間にはほとんど相関関係がない。完璧主義度の診断基準「オールモスト・パーフェクト・スケール(=おおむね完璧な基準)」を作成したカウンセリング心理学者のロバート・スレーニーによると、「完璧主義者はそうでない人に比べて、先延ばし癖の持ち主が少なかった。つまり、これまで個別の事例に基づいて主張されてきた通説が覆されたのである」。

私の調査でも、同様の結論が得られている。几帳面で、計画的・効率的に行動できる完璧主義者は、概してものごとをぐずぐず遅らせたりはしない。

では、私たちはどうして、先延ばしの原因が完璧主義だと思うようになったのか。理由は単純だ。完璧主義者のなかで、たまたま先延ばし癖に悩まされている人は、いかにも完璧主義者らしい行動を取り、セラピストなどに相談する確率が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

KKR傘下のロジスティードがアルプス物流買収へ=B

ビジネス

アジアのデータセンターM&A活発化、AIブームで記

ビジネス

トヨタの今期、2割の営業減益予想 成長領域などへの

ビジネス

郵船、1000億円上限に自社株買い決議 配当予想1
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中