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「イスラエルか、パレスチナか」の二項対立を超えて...映画『ホールディング・リアット』が突きつける、個人と国家の狭間

Not a Binary Opposition

2026年3月18日(水)16時20分
曽我太一 (ジャーナリスト・本誌コラムニスト)

──イスラエルでは和平を求める声は少なくなっている。イェフダを追いながら、そうした声についてどう感じたか。

ブランドン・クレーマー監督

映画を通して観察したことがある。イェフダは共存を語るが、10月7日の攻撃を辛うじて生き延びた孫ネッタは、映画の冒頭の場面で祖父イェフダに「共存の道は見えない」と言う。

両親を連れ去られ、自らも殺されかけた彼にとって共存や平和を考えることは不可能だ。

一方でタル(イェフダの娘でリアットの妹)は「政治の議論は後回しにしてでも、とにかく人質を家に帰すことに集中すべきだ」と言う。

実際に多くのイスラエル人がそう考えていた。平和が不可能なのではなく、人質が帰るまでは政治的な議論はしたくないという立場だ。

私は家族内のこうした異なる視点を全て映画に入れたかった。そうすることで、異なる考えを持つ人たちが同じ映画館で同じ映画を見ることができるからだ。

今、アメリカでも世界の多くの場所でも、人々はスマートフォンでイスラエルに共感するか、パレスチナに共感するかのどちらか一方の物語だけを見ている。

だが私はそうした二項対立を信じていない。共感とはどちらか一方を選ぶものではなく、苦しんでいる人間に向けるものだと思う。


──ユダヤ教には「人命救助は最高の宗教的義務」という考えがあるが、イスラエルではその価値が揺らいでいるという指摘もある。

上映会で「この映画はユダヤ人にとって危険だ」と言われたことがある。イスラエル政府を批判し、パレスチナ人の苦しみに共感しているからという理由だった。

しかし私が育ったユダヤ教の価値観は違う。ユダヤ教の中心的な価値の1つは議論と討論だ。ユダヤ人であるということは、この紛争について1つの解釈しか持てないという意味ではない。むしろ対話を開くことだと思う。

現在アメリカでも世界でも対話は麻痺しており、意見の異なる人間同士が話をしなくなっている。その結果、ネタニヤフやトランプ、ハマスのような極端な政治勢力が力を得ている。本来、全ての人が平和、安全、自己決定を望んでいる。ただ、その道筋を見つけられていないだけなのだ。

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