最新記事
大河

大河『豊臣兄弟!』の主役豊臣秀長の真の姿――大和郡山城に刻まれた統治者の性格

2026年1月27日(火)11時36分
香原 斗志 (歴史評論家、音楽評論家*PRESIDENT Onlineからの転載 )

天守はあったのか、なかったのか

本丸北方にそびえる天守台の石垣には、象徴的な転用石を見ることができる。ひとつは天守台北側の下部にあり、大永3年(1523)の銘文がある「逆さ地蔵」で、全高110センチほどの石仏が、石垣の隙間から奥に見える。ちなみに、地蔵自体は城全体で200程度見つかっている。また、南東の隅角部の下方にある石材は、平城京の羅城門の礎石だったといわれる。

ところで、大和郡山城は天守に関する史料がなかったことから、天守台の石垣はあっても天守は建てられなかった、という見方が長いあいだ根強かった。


しかし、平成26年(2014)の発掘調査で、天守台の上に東西南北に並ぶ礎石が発見され、1階面積が7間×8間の天守(5階建て相当)が建っていたことが確実になった。天守台南側には付櫓台があり、そこから地階の石垣が発見されたので、付櫓の地下から天守に入る構造だったこともわかった。さらには、天守の礎石の一部にまで、石塔などから転用した石が使われていた。

天守台からはたくさんの瓦も出土した。なかでも左三つ巴紋の軒丸瓦は、秀吉の大坂城のものと同范、すなわち同じ型からつくられており、そのことからも、大和郡山城が豊臣政権下において、どれだけ重要視されていたかがわかる。また、付櫓台からは金箔瓦も掘り出されている。

豊臣時代、秀長がここに建てたのは、豪壮な天守だったと思われる。関ヶ原合戦後に解体されたのち(二条城に移築されたと伝わる)、ふたたび天守が建てられた形跡はなく、それだけに、この天守台は秀長の時代の原型をよく留めていると考えられる。

天守台からの景色が意味すること

秀長による大和の統治が、豊臣政権にとっていかに重要だったか。そのことは、天正13年(1585)9月3日に秀長がはじめて入城した際、秀吉とともに5000の軍勢を率いてのことだった、という史実からも伝わる。

その際、興福寺の大乗院や一条院の門跡、東大寺の寺僧らが出迎えたが、そうした古代以来の権門の力を、自身の統治下にまとめ上げることも秀長の任務だった。そのためには大和の政治や経済の中心を、奈良から大和郡山に移すことが必要で、秀長は城に入って間もない10月14日、奈良で商売することを禁止し、その後は一切の商売を大和郡山で行うように命じた。

こうした統治の中核が大和郡山城だった。いまも天守台に登ると、奈良盆地が東大寺や興福寺の方面まで一望できる。豪壮な天守の最上階からは、さらにすべてが一望のもとだっただろう。この景色自体がいまなお、大和郡山城と秀長の位置づけを伝えてくれる。


※当記事は「PRESIDENT Online」からの転載記事です。元記事はこちら
presidentonline.jpg



ニューズウィーク日本版 教養としてのミュージカル入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月17号(3月10日発売)は「教養としてのミュージカル入門」特集。社会と時代を鮮烈に描き出すポリティカルな作品の魅力[PLUS]山崎育三郎ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

UAEフジャイラで石油積載一部停止、無人機攻撃受け

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ政権、イラン停戦交渉を

ワールド

アングル:トランプ氏が「迫害」主張の南ア、暮らしや
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中