「どうしてそんなに怒るの?」...映画『ハード・トゥルース』が描くのは、普通の家庭に潜む「怒り」と「孤独」
A Quiet Masterpiece
パンジーは違う。家具屋の店員に言われたさりげない嫌みや、虫歯を調べる歯科助手の処置にも、彼女は敵意を感じて、過剰に反応する。
『ハード・トゥルース』には、流血を伴うような残酷シーンはない。だが、シャンテルと娘たちが大笑いしてソファを転げ回るシーンから、不機嫌な沈黙に包まれたパンジーの家に画面が切り替わるときは、どこか残酷さを感じる。
超潔癖症のパンジーの家はちりひとつ落ちておらず、完璧に片付いているが、姉の髪を手入れするシャンテルは、その頭皮にストレスでかきむしったのか髪が生えていない部分があるのを見つけて胸を痛める。
現在82歳のリーは、19世紀に活躍した国民的画家を取り上げた『ターナー、光に愛を求めて』(2014年、原題:Mr. Turner)、19世紀初頭のイギリスの虐殺事件を描いた『ピータールー マンチェスターの悲劇』(18年、原題:Peterloo)と、史実を扱う映画の制作が2本続いた。
主演女優の圧倒的演技
本作では、それ以外のリー作品の真骨頂とも言えるイギリス庶民の家庭を舞台に、複雑かつ濃密な人間関係を描いた。
ただ、この「基本に戻る」路線がある意味で目新しさを失わせ、『ハード・トゥルース』の過小評価につながっている可能性がある。





