アメリカに初めて「ゴッホの絵画」を輸入した男...2500点の名画を集めた大富豪バーンズの知られざる「爆買い人生」

SHOPPING FOR A MUSEUM

2025年4月17日(木)15時00分
ブレイク・ゴプニック(美術評論家)

パリでの初めての買い付け

程なくして、グラッケンズは2万ドルの為替手形を持ってフランスの蒸気船ロシャンボーに乗り込んだ。「ヨーロッパ人は現金を見せると目の色を変える」とバーンズは言った。「即金で支払う準備があると言えば、有利に取引をまとめられるはずだ」

だがグラッケンズは数日で、事はそれほど簡単ではないことに気が付いた。「絵画の取引は子供の遊びではない」と、バーンズに宛てた手紙に書いている。セザンヌの小品でも3000ドルはするから、バーンズから預かった資金では、大した作品を調達できそうになかった。


それでも2週間後には、33点を確保できた。「素晴らしい作品を集められた」と、グラッケンズは言っている。だが、ドガやモネ(「高すぎる」)、あるいはゴーギャンやマティス(「もっといい作品を見たことがあるから、今は様子を見たほうがいい」)は含まれていなかった。

グラッケンズが故郷に送った33点の中には、近代絵画の逸品もあった。その代表格が、ゴッホが1889年に描いた傑作『郵便配達人ジョセフ・ルーラン(The Postman (Joseph-Étienne Roulin))』だ。

グラッケンズがこの絵を選んだ理由はよく分かる。『郵便配達人』にはグラッケンズの『ポニーバレエ』に通ずる「万華鏡のような」色彩と筆遣いが見られた。また郵便労働者をクローズアップで捉えた構図は、都会をリアルに描こうとするアッシュカン派の理想に近かった。

ゴッホの作品がアメリカに渡るのは、『郵便配達人』が初めてだった。オランダ人画家の革新性についてはアメリカでも広く噂になっていたから、絵を受け取ったバーンズは、非常に近代的で特別な一枚を手に入れたと確信したはずだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中