最新記事
新紙幣

日本初の紙幣の顔「神功皇后」を知っているか?...誰もが知ってる偉人が忘れられた理由

2024年7月25日(木)10時33分
井沢 元彦 (作家/歴史家) *PRESIDENT Onlineからの転載

【人間が簡単に覚えられる絵柄は「顔」】

龍の絵はひと目で「龍」だとわかるが、細かい部分まではなかなか記憶できない。記憶できないということは、偽札が細かい部分で真札と違っていても区別がつかない、ということになる。実はかなり複雑な「絵」なのに人間が簡単に覚えられ、ほかのモノとの見分けがつくのが「顔」つまり人の肖像なのである。

また、この明治通宝は紙の質にも問題があった。どうも洋紙は高温多湿な日本の気候に合わないらしく早く劣化する。日本の気候に合った和紙を使った方がいいのではないか、という議論が起こってきた。


 

もちろん新しい紙幣を作るとしたら、それは西洋のように人物の肖像を入れたものでなければならない。そこで日本国内で紙幣を印刷することになった。だが、そんな精密な印刷ができる技術者は日本にいない。そこで「お雇い外国人」としてイタリア人のエドアルド・キヨッソーネが招かれることになった。キヨッソーネの専門は精密な銅版画を作ることで、彼が「改造紙幣」の印刷原版を作ることになった。

【日本で初めて紙幣の絵柄に選ばれた人物】

問題は誰の肖像を選ぶかだ。もちろんキヨッソーネ自身が選んだのではない。彼が作ることを命じられた原版の肖像は神功(じんぐう)皇后であった。

彼女のことをあなたはご存じだろうか。明治の人間で、少なくとも知識階級で、彼女のことを知らない人間は一人もいなかっただろう。しかし今はまったくと言っていいほど忘れられている。これが日本人のダメなところで、歴史というすばらしい資源を生かし切れていないのも、こういうところに由来する。

一応、国語辞典にも「記紀に伝えられる仲哀天皇の皇后。名は気長足姫尊(おきながたらしひめのみこと)。仲哀天皇の没後、懐妊のまま朝鮮半島に遠征し、帰国後に応神天皇を出産したといわれる」(デジタル大辞泉)などと簡単な解説はある。

「記紀」とは『古事記』『日本書紀』のことだが、私に言わせれば「神功皇后とは何者か」がわかっていないと日本の歴史はわからないほどのビッグネームなのである。

『名高百勇伝』「神功皇后」歌川国芳 作『名高百勇伝』「神功皇后」歌川国芳 作(画像=ハンブルク美術工芸博物館/CC-Zero/Wikimedia Commons

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル全面安、FOMC控え

ワールド

アラブ・イスラム諸国、ドーハで首脳会議 イスラエル

ワールド

イスラエル首相、トランプ氏に事前通知 カタール空爆

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中