最新記事
新紙幣

日本初の紙幣の顔「神功皇后」を知っているか?...誰もが知ってる偉人が忘れられた理由

2024年7月25日(木)10時33分
井沢 元彦 (作家/歴史家) *PRESIDENT Onlineからの転載


【「金本位制度」とは何か】

欧米列強にも、日本の紙幣を相応の価値があるものと認めさせるためには、単純な保証ではなく実際にその紙幣の額面の金額に見合う貴金属と、いつでも交換する体制を整えておく必要がある。このような紙幣を兌換券と呼ぶ。だから、紙幣を発行するためには、まず「兌換」の対象とする貴金属を何にするかを決めなければならない。それが金なら金本位制、銀なら銀本位制になる。

実は当初日本は銀本位制をとる方針だった。世界の貿易で決済に使われているのが銀貨であり、もう一つ、幕末にきちんと交換レートを決めておかなかったので、日本の金が大量に海外に流出してしまったからである。


 

金の見返りには銀が入ってきたので、ある程度の量を確保できることから、銀本位制でいくしかないと実行寸前まで行ったのだが、これに待ったをかけたのが海外視察中の伊藤博文であった。当時欧米列強では金本位制が評価されており、世界の趨勢はそちらの方向であったからだ。

価格の変動しやすい銀に比べて金の方が安定している。特にイギリスが金本位制を採用したのも大きかった。しかし実際は金保有量の少なさがネックとなって通貨制度はなかなか安定しなかった。

金もさらに流出した。日本人が商品の代金として外国人に紙幣つまり兌換券を渡した場合、外国人はそれをそのまま持ち帰ったりはせず金と交換する。中央銀行に行く必要もない、本位通貨として壱圓金貨が発行されているから、それと等価交換すれば一円分の金の現物が手に入る。それを国外に持ち出す、つまり流出するということになる。それゆえ一時的に金銀の複合本位制が施行されたこともあった。日本が完全に金本位制になったのは、1897年(明治30)、日清戦争に勝利して賠償金を獲得した時であった。

とにかく明治の初期、なんとか本位制が成立したので紙幣を作ることになったのだが、問題は紙幣の「顔」である。今度は「龍」でごまかすというわけにはいかないからだ。

【紙幣の最大の欠点は「偽造しやすい」こと】

実は最初の紙幣の図柄も「龍」だった。しかし問題は、コインと違って精密な絵を印刷で大量生産する技術は日本にはなかったことだ。印刷機もない。そこでドイツの印刷会社にデザインを送り紙幣を印刷してもらうことにした。これを明治通宝(ゲルマン札)と呼ぶ。海を越えて送られてきたこの紙幣、1872年(明治5)にさっそく発行されたが、流通するにつれて不満が高まってきた。まずは偽造しやすいということがあった。

大日本帝国政府10円紙幣第2次世界大戦時の大日本帝国政府10円紙幣(画像=Bigwumpus/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

コインと同じく紙幣にも国王の肖像などを使うのが西欧社会では一般的だったが、その理由はまったく違っていた。コインはその人物の業績を顕彰し記念するために肖像を使うのだが、紙幣に肖像を使うのは第一に偽札防止のためであった。

紙幣の最大の欠点はもともと「印刷物」であり、地金のようにそれ自体に価値はまったくないということである。だから偽札造りが成功すれば犯罪者は濡手で粟の大儲けができる。何としてでも偽札を防止せねばならない。そのためにはどんなに記憶力の弱い人でも一見して「これは何の絵」だとはっきり認識でき、さらにその形状を簡単に記憶できるものがいい。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランのインフラ攻撃を5日間延期、トランプ氏表明 

ワールド

ジョスパン元仏首相が死去、シラク政権下で社会改革を

ビジネス

ECB、インフレ定着リスクなら躊躇せず行動=スロバ

ワールド

中国との関係改善「反米意味せず」、台湾野党党首が主
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 3
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 4
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に…
  • 5
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 9
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 10
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中