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無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイちゃん』...予想外の大ヒットはなぜ?【ネタばれ注意】

Tale of an Obsession

2024年5月16日(木)14時55分
イモジェン・ウェストナイツ(作家、ジャーナリスト)

マーサはトナカイのぬいぐるみを持っていた。子供時代の唯一の幸せな思い出であるそのトナカイに、ドニーがそっくりだったのだ。

そのとき彼は、彼女のことを何も知らなかったと気付く。自分に対する恐ろしい行為で刑務所にいる彼女もまた、とてつもない苦しみを経験していた。

ドニーは泣き始める。バーテンダーは彼を憐れむように、コーラのウオッカ割りをおごる。ドニーは少し驚いたような表情でバーテンダーの顔を見上げた。

その瞬間、ドニーは1杯の紅茶と、それが自分の人生に引き起こした大惨事を思い出したのだろうか。

それとも、ラストシーンになるあの上目遣いは、彼もマーサと同じようにとてつもない苦しみを味わい、傷つきやすいときに見知らぬ人からの親切を経験したということを暗示しているのだろうか。ドニーも会ったばかりの人に、不健全な愛着を募らせていくのだろうか。

私たちが共感しようとしてきた主人公は、表向きの悪役とそんなに変わらない人間なのかもしれない。

最後にそんなふうに思わせるところは、このドラマの果敢な挑戦だ。正気と「狂気」を分ける境界線は、私たちが思っているよりもろい。

©2024 The Slate Group

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