「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界で愛される「これだけの理由」

WHY ANIME IS LOVED THROUGHOUT THE WORLD

2024年5月1日(水)14時10分
数土直志(すど・ただし、アニメーションジャーナリスト)

newsweekjp_20240501032153.jpg

パリでナルトのお面をかぶるアニメファン GONZALO FUENTESーREUTERS

世代を超えて鑑賞できる心温まるストーリーが、良質なアニメーションとして国境を超えて支持を集めるようになった。スタジオジブリがとりわけ注目された理由は、アニメーターの職人技とも呼べる手描きの素晴らしさだった。

90年代以降、世界のアニメーションの中心地であったハリウッドや、それに追随する世界の大きなスタジオの多くが制作の主力を手描きからCGに移していく。この中で素晴らしい手描きアニメーションを作り続けるスタジオジブリの作品の魅力は、かえって輝きを増していった。

スタジオジブリの世界的な評価の確立は、02年のベルリン国際映画祭での『千と千尋の神隠し』の金熊賞(グランプリ)受賞にある。映画界の最高峰とされる場所で、アニメーション作品がグランプリを獲得したことは当時大きな事件だった。

スタジオジブリには国境や世代を超えて共感される物語があり、世界的に普遍のテーマがあるとの評価がここで広く認められた。

日本アニメの多様さと自由さ

キッズ向けのテレビアニメ、ヤングアダルト向けのエッジの利いた作品、それに作家性を発揮しつつも世代を超えるスタジオジブリと、世界に送り出される日本アニメはばらばらで、脈絡がないように映る。

だが「日本アニメ」全体に対する評価は、むしろこの幅広さと多様性にある。あらゆるジャンルの物語、表現、映像が飛び出すことこそが日本アニメの特徴であり、強みなのである。

海外の人気とひとくくりにされがちだが、実際には「海外」という国があるわけではない。そこにあるのはアメリカや中国、フランス、タイといった歴史も文化も異なる国々だ。そうした異なる文化に対して、それぞれに違った文脈で違った作品をアニメは届けることができる。

もちろん『ドラゴンボール』や『NARUTO』『ポケモン』のように、世界中で人気という作品はある。しかし『ドラえもん』や『名探偵コナン』の人気はアジアが中心だし、アメリカではサイバーパンク、アクション満載の作品が好まれる。

70年代、80年代のテレビアニメはヨーロッパで広く受け入れられてきた。さらにフィリピンで実写ドラマ化もされた『超電磁マシーン ボルテスV』の人気は70年代末の同国に限られた現象だった。日本アニメの受け入れられ方は一般に考えられているより多様で複雑だ。むしろここに日本アニメの人気の秘密がある。

ただし日本アニメはいつの時代にも、どの国でも人気があったわけでない。自由奔放な表現もあり、作品を規制する動きも少なくなかった。有名なのが、80~90年代に起きたフランスでの排斥運動だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも

ワールド

トランプ氏、イランに直ちに協議呼びかけ 「戦いに勝
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中