「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界で愛される「これだけの理由」

WHY ANIME IS LOVED THROUGHOUT THE WORLD

2024年5月1日(水)14時10分
数土直志(すど・ただし、アニメーションジャーナリスト)

newsweekjp_20240501032327.jpg

ロンドンのイベントでブースに描かれた『キャプテン翼』 JOHN KEEBLE/GETTY IMAGES

日本作品はもともと国内向けだったため、日本で既にビジネスは完結しており、海外には格安で番組を販売できる事情もあった。

各国のテレビ局は安く調達できる子供向けの番組として日本作品に飛び付いた。しかし海外の配給会社には番組が日本製であるとアピールする理由はなく、むしろ現地の子供たちに受け入れられやすいようにローカライズの工夫をした。

日本側も現地のローカライズに無頓着なところがあり、日本アニメは当初は日本製と気付かれず浸透していった。

大きな転換点となったのは、89年にアメリカで公開された『AKIRA』だ。本作では、むしろ「日本」が強調されている。物語の舞台は近未来の東京で、社会から疎外された少年たちがサイバーパンクなアクションを繰り広げるSFアニメ映画である。

主人公の金田は、細くつり上がった目、真っすぐな黒い髪、きゃしゃな体で、日本人そのものだ。ほかのキャラクターも同様で、見る側は日本を意識せざるを得ない。それまでの日本作品の登場人物が、8等身で金髪で大きな目をしているなど、無国籍なところがあったのとは対照的だった。

しかも『AKIRA』のディストピアな未来や複雑に絡み合う設定、激しいバトルは、同時代のSF小説や大人向けの映画に比肩するものだった。こうした題材がアニメーションで表現可能であること、子供のためでない大人の映像として成立することが、過去の作品とは何もかもが異質であると印象付けた。

『AKIRA』が当初、子供向けアニメ番組の視聴者とは異なる映像やアートなどのクリエーターらから絶大な支持を受けたのも納得できる。

『AKIRA』が開拓したファン層は、その後『攻殻機動隊』『獣兵衛忍風帖』『銃夢』といった作品に向かっていく。熱狂的なファンに支えられた映画やOVA(ビデオ向けアニメ)で展開される大人向けの作品群である。

これらはまた現在の深夜アニメと呼ばれるヤングアダルト向けの作品の源流でもある。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』『【推しの子】』など現在の世界的な人気作品もこの系譜にあると言えるだろう。

さらにもう1つ、80~90年代には別の日本アニメが海外に広がっている。スタジオジブリである。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中