最新記事
韓国社会

BTSメンバーの入隊を「最強兵器」に使っても、韓国軍が抱える問題は変わらない

POP STARS AS WEAPONS

2023年4月5日(水)12時48分
サイラス・ジン

230411p42_BTS_02s.jpg

韓国の男性アーティストには「年齢の壁」が立ちはだかる。BTSのパフォーマンス(2020年) BIG HIT ENTERTAINMENTーAMA2020/GETTY IMAGES

軍の根深い虐待文化もある。近年は、兵役中に過酷ないじめを受けた兵士が死亡したり、自殺したりする事件が相次ぎ、虐待を受けた兵士による銃乱射事件も起きた。

軍事独裁体制から民主化を果たして既に数十年がたつ韓国では、もはやこうした軍の文化は受け入れられず、世論の軍隊離れが進んできた。

少子高齢化は、この問題を一段と悪化させるだろう。韓国政府は19年、出生率の低下により、兵役従事者は向こう20年で半減するとの予測を示した。

兵士の待遇を大幅に改善へ

こうした構造的問題を抱える一方で、韓国軍は中国の軍事力増強と北朝鮮のミサイル能力向上に対処する必要性に迫られている。そこで文在寅(ムン・ジェイン)前大統領は18年、軍と民主主義体制との関係を見直す「国防改革2.0」を発表した。

その一環として、陸軍はより少ない人数で高度化を図り、兵士たちにとってより人間的な組織になることを目指すとともに、国民の信頼と支持を取り戻すために組織の説明責任と透明性を拡大しようとしている。

現在の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領は、文の改革を引き継ぎ、23年度の国防予算では、下級兵士の給与を全面的に引き上げる方針を示した。これまでよりも月給が48%アップする兵士もいる。兵士の装備や軍病院が改善され、基地外での活動に対する手当も引き上げられるという。

陸軍は、兵士たちの食事を劇的に改善する計画も試行している。民間の栄養士を雇い、新鮮な食品を提供する「ホテルのような」カフェテリアを造るというのだ。

兵役を統括する兵務庁も今年1月、軍務の代わりに公共機関などに勤務する「社会服務要員(軍事には不適格と見なされ、代わりに公共サービスの役割を担う兵役者)」が、軍人としての医療保険を完全に受けられるようにすると発表した(従来は一部だった)。

世界の舞台におけるBTSの文化的、経済的、そして外交的影響力を考えると、メンバーが音楽活動を休止して兵役に就くことは、一見したところ、韓国政府にとって大きな損失に思える。だが、軍にとっては2つの側面で重要だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル

ビジネス

トランプ氏、7日にも中国とTikTok米国事業の売

ワールド

チェコでも大規模停電、送電線が落下 欧州の電力イン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 10
    1000万人以上が医療保険を失う...トランプの「大きく…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 5
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中