最新記事

映画

【映画】「指を1本ずつ...」島民全員が顔見知りの「平和な島」で起こる、頑迷な人間を描くダークコメディー

Martin McDonagh’s Best Film Yet

2023年2月3日(金)17時18分
デーナ・スティーブンス(映画評論家)

2008年に公開されたマクドナー監督の『ヒットマンズ・レクイエム』は、中世のベルギーの街に潜む殺し屋コンビをグリーソンとファレルが演じたカルト的な傑作だったが、『イニシェリン島の精霊』はこの3人が組んだ映画の集大成と言えそうだ。

ファレルはいつも素晴らしい演技を見せてくれる役者だが、素朴だけれど奥の深いパードリックという男ほど彼にぴったりな役はないだろう。彼の身の安全や精神の安定に気をもみながらも、観客はファレルの顔の演技を見るだけで笑ってしまう。

グリーソンが演じるコルムも同様に印象的で、その抑制の利いた演技は、同じアイルランドの劇作家サミュエル・ベケットの作品の登場人物にもふさわしい。その他のキャストにもマクドナー作品の常連が多く、監督の意図をよく理解して、見る者を作品の世界に引きずり込む。

この作品が観客に与える最大の贈り物は、風変わりで親密な物語を、美しい孤立した場所での突然途切れた友情の悲しい物語にとどめ、それ以上の理屈っぽい寓話に仕立てなかったことだ。

この映画はモラルや友情、そして人生の究極の目的や意味について大きな問いを投げかけているが、マクドナーは私たちに、大切な友情や人生の選択について余計な教訓を垂れようとはしない。

最後のクレジット・ロールを見つめる私たちは、あの架空の島の住人と同じように、いったい何が何だったのだろうと途方に暮れる。でも、海は何も答えてくれない。

©2023 The Slate Group


THE BANSHEES OF INISHERIN
イニシェリン島の精霊
監督╱マーティン・マクドナー
主演╱コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン
日本公開は1月27日

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中