最新記事

セレブ

歌姫ビョーク、「想像を絶する」アメリカの暴力性に嫌気がさしアイスランドに帰国

An Island Mentality

2022年10月8日(土)12時21分
シャノン・パワー
ビョーク

世界的名声を博した音楽活動の今後は(8月のノルウェーでのライブ) SANTIAGO FELIPEーREDFERNS FOR ABA/GETTY IMAGES

<20年以上を過ごし、キャリアのピークを築いた地でもあるニューヨークを離れ、故郷アイスランドに帰国した真意は>

アメリカで相次ぐ銃乱射事件が思わぬ余波を生んだ。世界的に評価の高いミュージシャンのビョークが長年活動の拠点としてきたニューヨークを離れ、故郷アイスランドに戻ったというのだ。理由として本人が挙げたのが、度重なる銃犯罪だ。

「アメリカはとにかく暴力が多すぎる」。9月に米音楽メディアのピッチフォークの取材でビョークはそう答えた。「特に私みたいな小さな島国の出身だと、そう感じる」

現在56歳のビョークは1990年代後半にニューヨークに移住。公私にわたるパートナーだったアメリカ人芸術家のマシュー・バーニーとの間には2002年に娘のイザドラが生まれている(13年に破局)。ビョークにはバンドメンバーとの間に86年に儲けた息子シンドリもいる。

ニューヨークとアイスランドを往復する生活を続けてきたビョークが母国の首都レイキャビクに完全に引っ越したのは、コロナ禍の最中だった。彼女いわく、アメリカの暴力の規模は「想像を絶する」。国民全体で悲劇の痛みを共有するアイスランドでは考えられない現象だという。

2012年に26人が射殺されたコネティカット州サンディフック小学校の近くの学校でイザドラが学んでいたことも、ビョークにはショックだった。「半分アメリカ人の娘が、サンディフックから40分のニューヨークの学校に通っていたこともあるけれど......。アメリカで、私はアイスランド流に物事を受け止めてしまっていた。誰かが殺されると、みんなが傷つくような、島国根性とでも言うのかな」

銃乱射のほかにも、16年にドナルド・トランプが米大統領に当選したことにも落胆して「号泣」したという。「ニュースを見て打ちのめされて涙を流すなんて、初めての経験だった」

最新作はキノコがテーマ

ビョーク自身も何度か暴力沙汰の当事者になっている。96年にはビョークの恋愛スクープにショックを受けた熱狂的なファンが手紙爆弾を彼女に送り付けた後、自殺。「人が死んだことにひどく動揺した。自分や息子が(爆弾で)傷つく可能性があったことも心底恐ろしかった」と当時の彼女は語っている。

エキセントリックな言動で知られるビョークが加害者側に回ったこともある。96年にタイの空港で報道陣に囲まれた際に記者を突き飛ばしたほか、08年にはニュージーランドでカメラマンに襲い掛かり、相手のTシャツを引きちぎっている。

ビョークの「ニューヨーク時代」は彼女のいくつかのヒットアルバムや元夫との共作、主演・音楽を担当した映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(カンヌ映画祭で主演女優賞を受賞)が世に出た時期で、絶頂期の1つといえる。

だがエンタメの中心地から離れてもビョークの創作意欲は旺盛だ。9月30日には10枚目のアルバム『フォソーラ』を発売。キノコ類の生命がテーマの「マッシュルーム・アルバム」だというこの最新作は、ラテン系のレゲトン・ビートやバスクラリネットを鳴らし、インドネシアの音楽デュオ、ガバ・モーダス・オペランディを起用している。小さな島国からも壮大な世界観の音作りを続けるだろう。

ニューズウィーク日本版 AIの6原則
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月22日号(7月15日発売)は「AIの6原則」特集。加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」/仕事・学習で最適化する6つのルールとは


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

リオ・ティント、鉄鉱石部門トップのトロット氏がCE

ワールド

トランプ氏「英は米のために戦うが、EUは疑問」 通

ワールド

米大統領が兵器提供でのモスクワ攻撃言及、4日のウク

ビジネス

独ZEW景気期待指数、7月は52.7へ上昇 予想上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 2
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 5
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 6
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 7
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 10
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中