最新記事

韓国映画

韓国映画『ベイビー・ブローカー』で是枝裕和監督が答えたかった問い

Compassion for Discarded Children

2022年6月23日(木)10時20分
大橋 希(本誌記者)
『ベイビー・ブローカー』

(左から)カン・ドンウォン、イ・ジウン(IU)、ソン・ガンホは「赤ちゃんを売る」旅に出る © 2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED

<赤ちゃんポストへの評価、家族を撮り続けること、IUにオファーした理由、ソン・ガンホのアドバイス──そして、この作品で是枝監督が大切にしたかったこととは>

教会が運営する「赤ちゃんポスト」に子供を預けた未婚の母(イ・ジウン/歌手名IU)と、その赤ちゃんを養父母に売ろうとするブローカー(ソン・ガンホとカン・ドンウォン)、彼らを人身売買で現行犯逮捕するために追う刑事(ペ・ドゥナとイ・ジュヨン)。さまざまな立場の彼らの思いが絡み合い、「赤ちゃんを売る」旅は思わぬ展開へ──。

是枝裕和監督の最新作『ベイビー・ブローカー』はソン・ガンホとカン・ドンウォン、ペ・ドゥナへの当て書きで脚本を書いた韓国映画(日本公開は6月24日)。5月のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞、キリスト教関係団体から贈られるエキュメニカル審査員賞を受賞し、一足先に公開した韓国でも話題になっている。

「韓国でも日本でも、赤ちゃんポストに対する評価は分かれていて、その両方の目線をきちんと描かないといけないと思った」と話す是枝に本誌・大橋希が話を聞いた。

◇ ◇ ◇

──韓国で撮ったからこそ、という点はあるか。

赤ちゃんポストの存在自体、韓国でもそれほどポピュラーではないが、預けられる赤ちゃんの数は日本より圧倒的に多い。社会問題になった時期もあり、今回のようなストーリーは韓国の人たちに現実的なものとして受け取ってもらえると思う。

──「人身売買」という言葉から想像するような深刻な作品ではなかった。

赤ちゃんを横流しして売るというのはもちろん悪いこと。ペ・ドゥナ演じる刑事は「あいつらはとんでもない悪人で、母親も無責任」と思っていて、おそらく観客も最初はそうした目線を持つ人が多いだろう。だからカメラが(ブローカーたちの)車の中に入ったとき、そうした先入観とは違う彼らの姿を見せたかった。それがある種の軽さにつながったのかもしれない。

──製作にあたり、さまざまな当事者の声を聞いたと思う。その中で、大切にしなければならないと思ったことは。

日本でも韓国でも赤ちゃんポストへの評価は分かれていて、「命を守るために必要だ」という擁護と「捨てることを助長する」という批判はずっとある。その両方の目線をきちんと描かないといけないと思った。だから登場人物も、違う意見を持つ人たちがいることが大事かな、と考えた。

もう1つ、取材で出会った複数の子供たちが「自分は生まれてきてよかったのか」という根本的な疑問を拭えないまま大人になっていて、やはりそのことが一番重たかった。本人の責任では全くないですからね。社会の責任であって。

その子たちに自分の生を肯定してもらいたい、自分は彼らの疑問を受け止めて、きちんと答えるべきだという気持ちが強くあった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、新たに人質2遺体を返還 ガザで空爆続く中

ワールド

トランプ氏、26年度の難民受け入れ上限7500人に

ワールド

米NY州が非常事態宣言、6500万ドルのフードバン

ワールド

ロシア、ウクライナのエネルギー施設に集中攻撃 全国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面に ロシア軍が8倍の主力部隊を投入
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【クイズ】開館が近づく「大エジプト博物館」...総工…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」にSNS震撼、誰もが恐れる「その正体」とは?
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 10
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中