最新記事

アート

NFTにオークション大手が続々参入 「変化するアート」今後の課題は

2021年11月15日(月)13時18分

「私が何よりも驚いたのは、作家らがオークションハウスと直接取引したいと思っているということだ。私たちはこれまで常に二次市場で活動していたのに」と語るのは、やはり世界的なオークションハウスであるフィリップスで20世紀・現代美術のシニアスペシャリストを務めるレベカー・ボウリング氏。

「伝統的構造はひっくり返された」と語るボウリング氏は、作家との連絡にツイッターとクラブハウスを使っているという。

クリプトアートのリスクは

だが、まだ馴染みの薄いメタバースに乗り込んだオークションハウスは、新たな次元のリスクにも直面している。特に、購入者たちがNFT購入の決済手段として好む暗号資産に伴うリスクだ。

オークションハウスが「本人確認(KYC)」と「マネーロンダリング防止(AML)」という2点で法的リスクに直面すると指摘するのは、仮想通貨を得意とする弁護士で、ニューヨークのダイレンドルフ・ローファームのパートナーであるマックス・ダイレンドルフ氏だ。

「このような作品は有価証券と見なされる可能性があり、画廊が作家や作品を選別する際には独自にデューデリジェンス(資産査定)を行う方がいい」とダイレンドルフ氏は語り、すでに暗号資産を利用したマネーロンダリングが行われていることは「周知の事実」になっていると指摘した。

サザビーズは、自社のKYCやAMLの手順に関するコメントを控えている。クリスティーズは、NFTの販売におけるKYC及びAMLの基準は、リアルな美術作品に対するものと同じだとしつつ、詳細についての説明は拒んでいる。フィリップスは、購入者のウォレットに十分な残高があるかをチェックしていると述べた。

もう1つの問題は、NFTはデジタル資産の所有権を明白に登録する方法として販売されているが、それでもトラブルが生じる可能性がある、ということだ。

サザビーズが6月に販売したNFTの1つは、初のNFT作品と称されるケビン・マッコイ氏によるシンプルな幾何学模様のアニメーション作品「クオンタム」で、購入者は150万ドルを投じた。だが、同じNFT作品についてもっと前のオリジナル版を所有しているという異議申し立てが起きたことで紛糾した。

これとは別に、サザビーズがワールドワイドウェブのソースコードを表現するNFTをオークションで販売した後(540万ドルで落札された)、コードの動画バージョンに誤りが含まれていることを識者が指摘している。

双方の事例についてサザビーズにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

マイアミ州を本拠とするコレクター、パブロ・ロドリゲス・フレイル氏は、NFTとリアルな芸術作品の双方を収集対象としている。同氏によれば、オークションハウスがデジタルの世界に参入する際の取り組みは非常に高く評価できるという。

「オークションハウスは、デジタルアートのエコシステムの標準化を進めている。彼らはまもなく正しい道を見つけるのではないか」とフレイル氏は語る。

「とはいえ、キュレーションの難しさと技術的な課題は重要なテーマだ」と同氏は述べ、オークションハウスが画廊のように一次販売に関わることの難しさを指摘する。

クリスティーズは16日、デジタルアート作家「ビープル」によるNFT新作を販売する。同氏のNFT作品は3月の同社オークションで6900万ドルの値を付けた。大手オークションハウスが、物理的には存在しない芸術作品を販売したのは、このときが初めてだった。

だが今回は、「ビープル」の作品は、NFTと同時に実体のある作品としても販売される。少なくともクリスティーズでは、実物の世界にもいくばくかの魅力が残っているようだ。

(Elizabeth Howcroft記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・新型コロナ感染で「軽症で済む人」「重症化する人」分けるカギは?
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中