最新記事

カルチャー

コロナ禍におけるアイドルの握手会の変化

2021年3月25日(木)16時15分
廣瀨 涼(ニッセイ基礎研究所)

一方で、地理的に会場までの距離が遠いファンや、身体的な事由により会場へ足を運ぶのが不可能なファン、若年層で保護者の付き添いが必要であったファンなど、さまざまな理由で参加を躊躇するファンもいた3。彼らにとっては自宅にいながらアイドルに会えると言う事が、オンラインミート&グリートに参加したくなる動機になっている。また、新参者にとっても握手会場にいる他のオタクたちの熱量や圧力を感じる必要がないことは、心理的なハードルの低さにもつながり、いままで握手会に参加していなかったファン層が参加しやすい仕組みともいえるのかもしれない4。

今後はアイドルとの交流方法も変わってくると思われる。2014年5月に起きた「AKB48握手会傷害事件」以後、握手会会場の警備は強化され、握手時に荷物の持ち込みが不可能になったイベントも多い。そのため、首から名前を書いたホワイトボードを下げたり、名札を付けると言った方法でしかアイドルに視覚的に訴えることができなくなっていた。しかし、オンラインで自宅から交流できるようになったことで、アイドルに対して新たな方法でアピールをすることが可能となった。部屋の内装をそのアイドルグッズで装飾したり、ペットやそのアイドルが好きなキャラクターグッズを見せて会話の糸口にするなど、自宅からの参加だからこそできる交流方法が生まれているのである。これは、コロナ禍で握手会の代替とされたオンラインミート&グリートを如何に活用するかファンが試行錯誤している結果でもある。

握手会においてはファンである自身、アイドル、他のファンという三者が「握手をするという行為」を顕示的消費の性質へ変化させていたが、オンラインミート&グリートは他のファンを考慮しない自身とアイドルの一対一であった従来の握手会の性質へと回帰していると言えるのかもしれない。

さいごに

全国各地で徐々に緊急事態宣言が解除され、また一般のワクチン接種対応準備が少しずつ整い始めるなど明るい兆しが見え始めている一方で、感染者数のリバウンドが懸念されており、コロナウイルスの感染状況は予断を許さない。今後、エンターテインメントも少しずつライブ配信から観客動員型のイベントへとシフトしていくとは思われるが、ソーシャルディスタンスの必要性があるうちは、握手会のような接触型のイベントの開催はまだまだ難しいだろう。エンターテインメント供給サイドは、如何にしてファンたちのロイヤリティを維持させるかという点がアフター・コロナにおける戦略の焦点だと思われる。

────────────────
3 握手会が混雑すると会場外で何時間もの間待機することもある。炎天下の真夏や雪が降る真冬においても例外なく、外での待機を強いられてしまう。脱水症状により救急車で搬送されるケースもあり、体力的な理由で参加が困難なケースもある。
4 握手会会場で仲のいいファン同士がチームのように屯し情報交換をし合ったり、古参ファンが昔のグッズなどを身につけてファン歴の長さをアピールしているという事に対して、新参者は劣等感を覚え、参加することのハードルになることもある。

Nissei_Hirose.jpeg[執筆者]
廣瀨 涼
ニッセイ基礎研究所
生活研究部 研究員

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中