最新記事
映画

タランティーノ9作目『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のオタク的なこだわり

The Culmination of Tarantino’s Obsessions

2019年8月30日(金)19時15分
デーナ・スティーブンズ

しかし、行き着く先があの惨劇だと知っている以上、素直には楽しめない。タランティーノが必ず衝撃度満点の暴力的な見せ場を用意する監督と知っていれば、なおさらだ。

予想どおりと言うべきか、この作品でもクライマックスに向けて暴力性が高まっていく。そして例によって、この監督が暴力や伝統的な男らしさの規範を批判したいのか、祝福する気なのかも分かりにくい。

その後のアメリカ人の人生観に大きな傷痕を残したあの悲惨な現実の事件を、タランティーノはなぜ自分の、架空の物語の背景に使ったのか。答えが見つからないまま、私たちは映画館を出ることになる。

アートは主張ではないと言うこともできる。しかし単に当時の車や衣装、ネオンサインやヒッピーガール、LSDたばこといった小道具を引っ張り出すためにあの事件を利用したのなら、それはあまりに情けない。

ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
監督/クエンティン・タランティーノ
主演/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット
日本公開は8月30日

©2019 The Slate Group

<本誌2019年9月3日号掲載>

【関連記事】【再録】タランティーノvs.本誌「辛口」映画担当の舌戦
【関連記事】「凋落」カンヌが目指すハリウッド頼みの復活劇

20190903issue_cover200.jpg
※9月3日号(8月27日発売)は、「中国電脳攻撃」特集。台湾、香港、チベット......。サイバー空間を思いのままに操り、各地で選挙干渉や情報操作を繰り返す中国。SNSを使った攻撃の手口とは? 次に狙われる標的はどこか? そして、急成長する中国の民間軍事会社とは?


ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本のCEO
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月1日号(6月24日発売)は「世界が尊敬する日本のCEO」特集。不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者……その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

IAEA事務局長、イラン核施設への査察再開が最優先

ビジネス

フジ株主総会、会社提案の取締役11人全員承認 ファ

ビジネス

伊モンテ・デイ・パスキのメディアバンカ買収提案、E

ワールド

トランプ氏、米攻撃でイラン核開発数十年遅らせたと主
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 9
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 10
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中