最新記事

BOOKS

ドローンは「自動車のない世界に現れた電気自動車」なのか

2015年7月31日(金)18時30分
印南敦史(書評家、ライター)

 特におもしろいと感じ、そして納得させられたのは、ロバとドローンを比較してみせた最終章だ。いまから5000~6000年前に家畜化されたロバには、荷物輸送用や乗用として飼育されてきた歴史がある。荒れ地や山道をも踏破でき、すぐれた輸送能力を持っているため、人間の経済活動を拡大させる原動力になったというのだ。そしていま、ドローンがその役割を継承しようとしているというわけである。


今度は機械の家畜が、再び人間社会を変えようとしている。(中略)ドローンもロバと同様、人間に新しい輸送能力をもたらした。小型だが扱いやすく、空という新たな空間を利用して、どんな場所でも荷物を運ぶことができる(中略)。ドローン配送が一般化すれば、人が暮らし続けられる地域を拡大することができるだろう。(257ページより)


 その一方で著者は、ドローンをめぐる現在の状況を「自動車のない世界に突然電気自動車が現れたようなもの」(214ページより)と表現してもいる。


電気自動車は構造が比較的単純で、部品化が進んでおり、ある程度の技術力があれば誰でも作れてしまう(中略)。誰にでも作れてしまうのに、下手すると人を殺すぐらいの力がある。ところがこの世界には、信号機もなければ自動車専用レーンもなく、運転技術や安全のためのルールを教えてくれる教習所も存在しない(そもそも交通規則というものが存在しない)。(215ページより)


 つまりは、どこか矛盾を内包したこの状態こそが、ドローンを取り巻くリアルだということだ。とはいえ、問題が残されているということは、そこに希望があるということでもないだろうか。著者もその点を認めていて、人間にない能力を備えているからこそ、ドローンは「これまでになかった仕事の進め方を可能にしてくれるかもしれない」(248ページより)と語っている。

 事実、漁業の世界では、船の上からドローンを放ち、カメラで魚影を探して漁を行うポイントを探すといった使い方が考案されているのだという。そればかりか、ソナーを搭載し、水中の魚影をキャッチしてスマートフォンのアプリにデータを送ってくれるウォータープルーフのドローンまで登場しているらしい。もちろんこうした未知の可能性は、他のあらゆる分野においても同時多発的に生まれているだろう。

 ちなみに上記で「これまでになかった仕事の進め方を可能にしてくれるかもしれない」とかぎかっこをつけたことには理由がある。というのも本書には、「~かもしれない」という表現がよく見られるのだ。そしてそれが、まだ見ぬ「ドローンと暮らす未来」を思い起こさせてくれるのである。

「あれができるかもしれない」
「これができるかもしれない」
「しかも、可能性は思っていたよりも大きいようだ」

 肯定的に、そう感じさせてくれるということだ。だから読み終えたころには、私の頭のなかにも以前には見えなかったドローンの将来的なイメージが浮かぶようになった。



『ドローン・ビジネスの衝撃
 ――小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット』
 小林啓倫 著
 朝日新聞出版

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

エヌビディア「自社半導体にバックドアなし」、脆弱性

ワールド

トランプ氏、8月8日までのウクライナ和平合意望む 

ワールド

米、パレスチナ自治政府高官らに制裁 ビザ発給制限へ

ワールド

キーウ空爆で12人死亡、135人負傷 子どもの負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 9
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中