最新記事

映画

現実は続編『ウォール街』より凄い

金融専門記者がマイケル・ダグラス主演『ウォール・ストリート』を観てあくびをかみ殺した理由

2011年1月28日(金)16時50分
ダニエル・グロス(ヤフーファイナンス経済エディター)

カムバック 刑務所を出たゲッコー(右、ダグラス)は拝金主義を捨てたのか ©2010 TWENTIETH CENTURY FOX

 投資家たちの熾烈なマネーゲームを描いた映画『ウォール街』から23年。続編『ウォール・ストリート』(日本公開は2月4日)で、マイケル・ダグラス演じる主人公ゲッコー(前作より白髪が増えて腹回りに肉がついた)は、際限なき借金文化について大学で講義する。インサイダー取引の罪で8年間の刑務所暮らしを送った後、ゲッコーは説教臭い男に生まれ変わった。「欲望は善だ」というかつての決め台詞も、薄っぺらいキャッチフレーズ「私の本を買いなさい」に取って代わられた。

『ウォール・ストリート』は終始こんな調子だ。緊迫感あふれる展開を加えつつ、本質を映し出して見る者を引きつける点は前作と変わらない。カネが人の価値観を狂わせ、人間関係をぶち壊すのも同じだ。

 とはいえ、前作『ウォール街』が公開されたのはニューヨーク市場の株式大暴落「ブラックマンデー」の数週間後。ウォール街の内幕を描いた作品もまだ登場していなかった当時、『ウォール街』が描いた世界は人々にとって未知の領域だった。

 しかし今では、ウォール街をフィクションで描くハードルは昔より高くなった。ナスダック元会長で巨額詐欺事件の容疑者となったバーナード・マドフの話をしのぐ物語などあり得ないだろう。

「カネの問題じゃない。これは人間同士のゲームなんだ」と、ゲッコーは娘の婚約者である若い投資家ジェイコブ(シャイア・ラブーフ)に言う。しかし実際は、もちろんカネの問題だ。人間同士のゲームにすぎないのなら、ウォール街の人々は大金を稼ぐために友人や株主をだましたりせずに、モノポリーにでも興じるだろう。

 最終的には、『ウォール・ストリート』はウォール街の闇の世界へと落ちていく。現実のウォール街と同じように、この映画には不誠実さとごまかしが蔓延している。それが嘆かれ、ときに許されてしまう世界だ。映画版だけが、カネの亡者たちに生まれ変わる道を開いているが。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ロシア国営宇宙企業トップ、スターリンクの対抗事業開

ワールド

EUは26年末までにロシア産原油輸入停止を、ポーラ

ワールド

米銃撃事件で警官3人死亡・2人重傷、ペンシルベニア

ビジネス

日経平均は史上最高値を更新、足元は達成感から上げ幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中