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危険が香る夢の中へ『インセプション』

2010年9月6日(月)15時05分
キャリン・ジェームズ(映画評論家)

想像力を羽ばたかせる

 けれどもこうした込み入った部分は、ノーラン作品ではおなじみの「事態を掌握することへのこだわり」を表している部分でもある。健忘症を患った『メメント』の主人公は消えゆく記憶にしがみつこうとするし、バットマンは混沌に陥ったゴッサム・シティに秩序を取り戻そうとする。そして『インセプション』の登場人物たちは本来コントロールし得ないもの、つまり潜在意識を制御しようとする。

 コントロールがキーワードであるにもかかわらず、『インセプション』は陳腐なアクションを多用して、作品としての一貫性を失ってしまった面もある。だがある種の文化的瞬間を捉えているという意味では、この映画にも(そしてほかの異世界ものの映画にも)考えさせられる点はある。

 こうした映画が最もストレートに捉えているのは、2年ほど前のアメリカかもしれない。当時、米大統領の座を目指していたバラク・オバマの選挙戦は変化、そして明るい未来への希望そのものだった。これらの映画は、たとえ政治の現実は厳しくても、想像力を羽ばたかせることが新たな解決法を見つける最良の方法であることを、思い出させてくれる存在ではあるかもしれない。

 ただし昨今の情勢を踏まえて深読みすれば、地球のエネルギー問題を解決するには、エネルギー企業幹部の脳みそをごっそり取り換えるしかないと言っているようにも思えるが──。

[2010年7月28日号掲載]

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