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高級コールガールと資本主義の孤独

大都会で繰り返されるカネだけの関係を、S・ソダーバーグが冷ややかにえぐり出す『ガールフレンド・エクスペリエンス』

2010年8月4日(水)14時43分
デーナ・スティーブンズ(脚本家)

仮面の妖艶  ポルノ女優のグレイが本音を見せないヒロインを魅惑的に演じている ©2009 2929 Productions LLC. All rights reserved.

 スティーブン・ソダーバーグ監督の新作『ガールフレンド・エクスペリエンス』は、彼お得意のスケッチ風の小作品。大ヒット作の合間に手掛ける単発の「実験」だ。

 前回の実験は革命家チェ・ゲバラの半生を2部構成で描いた4時間超の大作だったが、今回は何もかもが小さい。上映時間は77分で撮影はデジタルカメラ、脚本は必要最小限でせりふはほぼアドリブ、キャストは全員無名だ。

 正確には、一部の人にとっては無名と言うべきだろう。主演のサーシャ・グレイは22歳のポルノ女優。ポルノ映画界のアカデミー賞とされるAVN賞をこれまでいくつも受賞している。

 『ガールフレンド』は低予算にもかかわらず、ゴージャス感があり、しゃれた作品に仕上がっている。グレイ演じるチェルシーは、1時間で2000ドル稼ぐ高級コールガール。マンハッタンの4つ星レストランや高級ブティックに出入りする。グレイは本当の意味の女優ではないが、無表情で心の内を見せない演技が妙に魅惑的だ。

 チェルシーは仕事(デート)の内容をすべて自分のパソコンに記録する。そのときに身に着けていた服のブランド名まで書き込むチェルシーの映像に、彼女の感情のない声が重なる。「マイケルコースのドレスと靴、その下はラ・ペルラのランジェリー」

鋭い観察眼は光るけれど

 セックスだけでなく、「ガールフレンドとのひととき」を目いっぱいに楽しんでもらうのが、彼女の仕事だ。客と一緒に映画を見に行き、ワインを飲み、(ぎこちない)会話をし、朝食まで共にする。ただしすべてのサービスが終われば、1人高級リムジンに乗って次のデートへ。あいにくだが、セックスシーンはゼロ。グレイのヌードが数秒間映し出されるくらいだ。

 チェルシーの恋人クリスはスポーツジムのトレーナーで、彼女の仕事に理解を示す。彼女が引かれ始めた客から週末旅行に誘われるまでは......。果たしてチェルシーは旅行に行くのか。行ってクリスを失うのか。この映画でスリルが味わえるのはここくらいだ。

 それ以外はエピソード形式で時間の流れも行ったり来たりする。チェルシーの本音を探ろうとする記者(ジャーナリストのマーク・ジェイコブスンが演じている)や、ポルノサイトに批評文を載せる「エロチック鑑定家」(映画評論家グレン・ケニーが好演)とチェルシーの駆け引き。何度も挿入されるのは、クリスが裕福な客に誘われプライベートジェット機でラスベガスに向かうカット。どのシーンも鋭い観察眼が光るが、結局は同じ事の繰り返しだ。つまりチェルシーもクリスも彼らの客もみんなカネの亡者で、どんなに親密な出会いにもカネが絡み、孤独感と冷酷さに行き着く。

 映画の舞台は08年秋。米大統領選の投票日を目前に控え、経済は破綻し始めている。チェルシーの客である銀行家や脚本家や国際ビジネスマンも彼女と同じく金儲けのプロで、売り込みに忙しい。だがソダーバーグ監督の狙いは、彼らを皮肉ったり哀れんだりすることではない。彼は資本主義世界の弱肉強食の関係を、一歩引いたところから冷めた目で眺めている。

 テーマ的には取るに足りない作品だが、洗練された構成は2度見るだけの価値がある。

Slate.com特約)

[2010年7月14日号掲載]

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