最新記事

海外ドラマ

悪徳ヒーローがテレビで大暴れ

2009年4月7日(火)16時56分
ジョシュア・オルストン(エンターテインメント担当)

ミスは絶対に犯さない

 一方、『ザ・シールド』の完結編、シーズン7の最終回では、意外に地味な結末が用意されていた。手荒な捜査で鳴らしたマッキー刑事は、ラストで派手に射殺されるだろうというおおかたの予想を裏切って生き延びた。だが、家族や友人との絆を断ち切られ、単調なデスクワークをこなすことに......。その孤独な背中が深い余韻を残す、文句なしの完璧なエンディングだ。

 視聴者をあっと言わせるような派手な趣向に走りすぎないことが「番組を長続きさせるこつ」だと、このドラマの生みの親ショーン・ライアンは言う。

 もう一つアンチヒーローもので気になるのは、すねに一つも二つも傷をもつヒーローやヒロインが、その行動では完全無欠なこと。『24』のジャック・バウアーは次々に恥知らずな決断を下すが、結果的にはすべてが正解だ。『デクスター』で主人公の連続殺人鬼が殺すのは、法の目を逃れた凶悪犯だけだ。

 正統派のヒーローはミスも犯す。『ロー&オーダー』の正義感に燃える刑事たちは、最初に真犯人でない人物を逮捕することがよくあった。だが、デクスターが罪のない人を殺したり、ジャックがテロと無関係な人に自白を強いることは決してない。アンチヒーローには、まちがいを犯すという贅沢は許されない。視聴者も損をしていることになる。主役が自分のミスの尻ぬぐいをするスリル満点の展開は見られない。

 インターネット・バブルに住宅バブルときて、今度はアンチヒーロー・バブル。いずれにせよ、どんな斬新そうな趣向も食傷ぎみになったら終わりが近い。

 先の読めないこの時代に、テレビが必要としているのは、90年代に人気のあった『ナイスサーティーズ』に出てくる30代の夫婦のようなキャラクターだろう。世界を救うでもなく、世界を食いものにするのでもなく、どこかで静かに暮らしている人々だ。ドラマはもうドラマチックでなくてけっこう。現実がこれだけドラマチックなのだから。

[2009年1月21日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラに2.43億ドルの賠償命令、死傷事故で連邦陪

ビジネス

バークシャー、第2四半期は減益 クラフト株で37.

ビジネス

クグラーFRB理事が退任、8日付 トランプ氏歓迎

ビジネス

アングル:米企業のCEO交代加速、業績不振や問題行
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    オーランド・ブルームの「血液浄化」報告が物議...マイクロプラスチックを血中から取り除くことは可能なのか?
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 6
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 9
    ハムストリングスは「体重」を求めていた...神が「脚…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中