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「均等法第一世代」独身で昇進を続けた女性が役職定年を機に退職した理由

2024年12月18日(水)17時16分
奥田 祥子 (近畿大学 教授) *PRESIDENT Onlineからの転載

 “数合わせ” の女性優遇は許せない

「混乱、とは職場でどのようなことが起こっているのですか?」

「まず、リーダーとしての能力が備わっていないのに、女性管理職の数値目標を達成するため、つまり “数合わせ” の不適切な女性優遇措置で課長に昇進したために部下を管理・監督できないことです。うちの部でも人事部から打診を受けた時、きっぱりと断ったんです。でも、『社の方針だから頼む』と言われて......。対外的なPRも狙っているのでしょうが、女性の中でも敢えて子育て中の者を優先して登用しようとしているようで......納得いきません。下駄を履かせて課長に就かせてもらったにもかかわらず、子どもを保育園に迎えに行くとかで平気で残業せずに退社するし......。おのずと人間関係はギスギスするし、職場全体のパフォーマンスが低下しています。許せない! すべて部長の私の責任になるんですから......」

横沢さんの会社の女性登用が本当に不適切だったのかどうかは、わからない。ただ、幼児を育児中の女性課長の誕生が、部内に多少なりとも混乱を招いたことは確かだろう。


その後も取材するたびに、部下の女性課長だけでなく、全社的に少しずつ増えている女性管理職への批判の声がますます強くなっていった。

辞職の背後に女性部下への「パワハラ」

そうして、冒頭の2020年のインタビューで、むせび泣きながら気持ちを激しくぶつけたシーンへとつながるのだ。役職延長を2度重ねて57歳まで部長を務めた横沢さんにとって、次の職務として打診された未経験の営業部でのデータ管理は、「これまで必死に頑張ってきた自分のキャリア人生を否定されたようだった」と、感情の昂りが治まってから彼女は静かにつぶやいた。

その後、定期的に連絡をしても返信がない状態が続き、ようやく取材が実現したのは、22年のこと。退職後1年半は預貯金を取り崩して暮らしていたが、しばらく前から大学時代の友人の紹介でウェブライターの仕事を始めたのだという。

「広報部時代の経験を生かして、ライターを細々とやっています。会社員時代に比べると、誰がどう評価してくれるのかもわからない戸惑いもありますが......また社会とつながれて少しは気持ちが上向いたような気がしています」

そして、思わぬ告白を聞くことになる。広報部の部長時代、「女王蜂症候群*3」とも呼ばれる、女性上司による女性部下へのパワーハラスメント(パワハラ)の加害者として訴えられたというのだ。

「ずっとお話ししたいと思っていて、できていなかったのですが......。実は、仕事を辞める1年ほど前に女性部下からパワハラで訴えられていたんです。当時は事実無根と突っぱねましたが......パワハラに該当する部分はあったんでしょうね。残業や転勤もせずに子育てと両立させながら課長になり、有能な彼女が腹立たしかった。嫉妬していたのかもしれない。今ならそう、思えます......」

*3 女性が女性部下を敵と見なして手厳しく対応する現象。男性優位社会で努力して指導的地位を獲得した女性ほど、自分より職場で下位の有能な女性を自身の地位を脅かす存在と見なすという。女王蜂がライバルとなるメスと敵対する習性から名づけられた。米国・ミシガン大学の心理学者3人が発表した論文で初めて登場した概念で、1970年代に欧米で話題になった。

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