最新記事
鉄鋼

日本製鉄によるUSスチールの買収・子会社化...「待った」をかけたバイデンの「本音」

Can A Deal Be Made?

2024年3月25日(月)16時30分
リチャード・カッツ(ジャーナリスト)

newsweekjp_20240325033253.jpg

約141億ドルで米鉄鋼大手の買収を試みる日本製鉄 AP/AFLO

ほかの選択肢はない

現状では、まだ実質的な協議は始まっていない。合意に達するには時間がかかるだろう。だが現実問題として、USスチールが単独で生き延びるのは困難であり、同社を救済合併できるアメリカ企業は存在しない。労組側が望むのは同業のクリーブランド・クリフスによる買収だが、それは独占禁止法に抵触する恐れがあり、事実上不可能だ。

そもそも米国内には、伝統あるUSスチールを外国企業に売り飛ばすのは許せないという空気がある。本社のあるペンシルベニア州と隣接するオハイオ州選出の上院議員4人も同じ考えだ。共和党のトランプも、自分が当選したら「即座に」買収を阻止すると息巻いている。

この状況で、バイデン政権はCFIUSによる審査を持ち出した。支持率の低迷するバイデンは、共和党のみならず民主党支持者の間でも高まるナショナリズムと保護主義の波に逆らえない。

事態は深刻だ。ペンシルベニア州は激戦州で、ここを落としたらバイデン再選は難しい。またオハイオ州で民主党上院議員のシェロッド・ブラウンが再選を果たせなければ、民主党は上院の過半数を維持できない可能性が高い。

なおCFIUSは財務長官をトップとする組織だが、現場を仕切るのは国防総省などの主要省庁から出向しているスタッフだ。しかも厳密な意味での法的機関ではなく、むしろ政治的な助言機関の役割を果たすことが多い。言い換えれば、CFIUSが今回の買収にゴーサインを出しても、大統領は買収を阻止できる。しかもCFIUSの審査報告書が公表され、国民の目に触れることはない。

幸いにして、今の議会はこの問題に無関心だ。日本製鉄による買収に反対しているのは民主党の上院議員4人と共和党の上院議員3人、そして両党の下院議員53人だけ。有権者の大半も無関心だが、いわゆる激戦州ではどんなに小さな問題も勝敗を左右する要因となり得る。

一方で、政治的発言力の強い自動車業界などの主要企業には、日本製鉄によるUSスチール買収を歓迎する空気がある。他国の会社に買収されるよりも安心だからだ。

格付け会社も、合併が実現すれば同社の財務が改善され、社債の格上げにつながるとみている(現在は「ジャンク」扱いなので新規の社債発行が難しい)。合併で資金力が付けば積極的な設備投資もできるから、現役の労働者も年金受給者も安心できるだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は小幅反落、くすぶる高値警戒 史上最

ワールド

トルコCPI、10月前年比+32.87%に鈍化 予

ワールド

高市首相、来夏に成長戦略策定へ 「危機管理投資」が

ワールド

森林基金、初年度で100億ドル確保は「可能」=ブラ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中