最新記事
分析

中国経済の「失敗」は、習近平の「赤い進歩主義」が招いた必然の結果だった

ISSUES 2024: CHINESE ECONOMY

2023年12月23日(土)17時53分
イェンイェン・アン(米ジョンズ・ホプキンズ大学教授〔政治経済学〕)
中国経済の「失敗」

ILLUSTRATION FROM PROJECT SYNDICATE YEAR AHEAD 2024 MAGAZINE

<「コロナ後」の中国経済が悪化したのは習近平の強権統治の必然の結果だった。中国の失敗から学ぶべき「教訓」とは?本誌「ISSUES 2024」特集より>

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は2017年、中国共産党第19回党大会でこう宣言した。「中国の特色ある社会主義は......他の途上国の現代化への道を切り開いている」

当時は新興国や途上国の多くが中国の成功の方程式を学びたがっているように見え、アメリカはそれを欧米の民主的ソフトパワーに対する脅威と見なした。それから6年、地政学的パワーの「東方シフト」は反転したようだ。

中国は23年初め、3年間にわたるゼロコロナ政策を解除し、再び世界に門戸を開いた。「中国が帰ってきた」との声が多く上がったが、第2四半期に入ると中国経済の見通しは週を追うごとに悪化していった。

欧米の識者は当然のように手のひらを返した。中国が欧米を追い越すと警告した人々が、中国経済はピークに達し、その後の衰退は世界の安定を脅かすと論じた。

中国の指導者は国内の消火活動に忙殺され、中国から学ぼうとする者は誰もいなくなった。習の17年の演説が中国の「超大国宣言」だったとすれば、現代史上最も短命な地政学的勝利だったかもしれない。ただし、「勝利」が幻になったとしても、中国の最近の経験を無意味と切り捨てるのは短絡的すぎる。

アメリカ史では好況に沸いた19世紀後半の一時期を「金ぴか時代」と呼ぶが、この用語は中国の成果とつまずきを評価するのにも役立つ。中国は自国版の金ぴか時代を通じて経済成長を成し遂げたが、同時に多くの新たな問題も生み出した。

習が権力の座に就いた12年、中国は多くの成果を誇れる立場にあり、8億人を絶対的貧困から脱出させるのに必要な成長を維持していた。だが汚職が蔓延し、所得格差はアメリカを上回り、地方政府は借金漬けで、不動産バブルが迫っていた。つまり、習が引き継いだのは繁栄を謳歌する一方で、金ぴか時代の行きすぎにのみ込まれつつある中国だった。

毛沢東の死後、最高権力者となった鄧小平は画期的な改革開放政策を打ち出し、経済成長最優先の政治経済体制を確立した。現実主義者の鄧は民間部門の力を解き放ち、対米関係を改善して貿易を行い、官僚機構に競争と説明責任を課した。

さらに言えば、これらの経済改革は静かな政治革命の上に成り立っていた。毛のワンマン支配から任期付きの集団指導体制への移行である。

鄧は決して汚職を肯定しなかったが、「先に豊かになれる者を富ませる」という先富論を唱えた。経済成長に貢献した党幹部は個人的利益を得られると示唆したようなものだ。

日本企業
タイミーが仕掛ける「一次産業革命」とは? 農家の「攻めの経営」を後押しするスキマバイトの可能性
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相との会談「普通のこと」、台湾代表 中国批判

ワールド

米韓制服組トップ、地域安保「複雑で不安定」 米長官

ワールド

マレーシア首相、1.42億ドルの磁石工場でレアアー

ワールド

インドネシア、9月輸出入が増加 ともに予想上回る
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中