最新記事

地政学

もはや企業に「中立」はない──懸念高まる中国依存、多国籍企業に迫る「苦渋の選択」

The End of Corporate Neutrality

2023年1月10日(火)13時50分
エリザベス・ブラウ(アメリカン・エンタープライズ研究所研究員)
車

中国から外国メーカーの製造拠点が流出している(写真は2022年に上海で開かれた国際輸入博覧会の様子) ZHANG WUJUNーVCG/GETTY IMAGES

<欧米圏と反欧米圏という東西のブロック化が進むなか、多国籍企業は難しい選択を迫られている>

アップルが一部製品の生産拠点をベトナムとインドに移しつつある──。

2022年後半にそんなニュースが飛び込んできたとき、世界経済の新たなトレンドが明確になった。企業が地政学リスクを避けるために、製造拠点やサプライチェーンを、友好的な国に移転する「フレンド・ショアリング」だ。

世界は今、欧米主導の西側ブロックと、中国が(今のところ)主導する東側ブロックに分断されつつある。

冷戦の終焉以降、地政学をほぼ気にせずに事業活動のグローバル化を進めてきた企業にとって、これは一大事だ。もはや企業にとって、政治的な立場を取らない中立戦略は勝利をもたらさないし、そんな戦略を取ること自体が不可能になっている。

アップルはこれまで、生産拠点を中国に維持することに強くこだわってきた。河南省鄭州市はiPhoneシティーとも呼ばれ、アップルの製品の85%が製造されていた時期もあった。

だが、実のところ、しばらく前から多くの多国籍企業が、製造拠点や市場として中国に過剰依存している状態に不安を覚えるようになっていた。

国際的なコンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソン(WTW)が22年3月に発表した政治リスクリポートによると、アジア太平洋地域(つまりは中国)の政治リスクを懸念していると答えた企業エグゼクティブは、懸念していないと答えたエグゼクティブの20倍に達した。2年弱前は2倍だったから飛躍的な危機感の高まりだ。

在中国EU商工会議所が22年夏に発表した調査では、EU企業の23%が中国以外の国への事業移転を計画中だった。「現在の中国で唯一はっきりしているのは、将来の予測がつかないことだ。これはビジネス環境としては好ましくない」と同会議所のベッティーナ・シェーンベハンツィン副会頭は語る。

こうしてフレンド・ショアリングが進んできた。必ずしも中国から完全に撤退するわけではない。ただし、企業は中国に依存することの危険性に気付き始めた。この3年の中国国内の混乱と度重なる政策変更は、その安定性に大きな疑問を生じさせている。

それに欧米諸国を敵と見なす国でビジネスを行うことは企業イメージを悪化させ、政治的コストを高くする。何も中国だけではない。今や世界は、2つの地政学的ブロックに分断されつつある。

企業が報復措置の矢面に

WTWとイギリスの調査会社オックスフォード・アナリティカは、1月末に発表予定の共同報告書で、一般に政治的リスクが高いと見なされるが、大きな市場を持つために、多くの多国籍企業が事業活動をしたがる61カ国・地域の評価を行っている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米インフレ再上昇せず、ホワイトハウス経済顧問がFR

ワールド

トランプ氏、ペルシャ湾の呼称変更を示唆 「アラビア

ビジネス

情報BOX:パウエル米FRB議長の会見要旨

ワールド

米、対中関税から子ども用品の除外を検討=財務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗と思え...できる管理職は何と言われる?
  • 4
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「関税帝」トランプが仕掛けた関税戦争の勝者は中国…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    首都は3日で陥落できるはずが...「プーチンの大誤算…
  • 10
    ザポリージャ州の「ロシア軍司令部」にHIMARS攻撃...…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中