最新記事

権力

社会を変えるのは、実は「風見鶏」タイプの人──ハーバード大学「権力の授業」より

POWER, FOR ALL

2022年7月7日(木)14時42分
ジュリー・バッティラーナ(ハーバード大学ビジネススクール教授)、ティチアナ・カシアロ(トロント大学ロットマン経営大学院教授)

220712p18_BSI_07.jpg

BLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事) RINGO CHIUーREUTERS

植民地が宗主国の支配を脱する、市民が独裁者や君主を倒す、多様な人種、民族、宗教、ジェンダーのアイデンティティーを持つ人々が対等な権利を要求する──どれも、集団行動の力で成し遂げられたものだ。

歴史を振り返っても、個人的な経験からも、いかなる形であれ過剰なパワーは警戒すべき対象だ。どんな人でも、十分なパワーと十分な時間を与えられれば、それを乱用するリスクが高まるのは避けられない。

ただし、パワーの一極集中を全面的に回避することはできなくても、社会科学の研究によってパワーの乱用を封じ込める方法に関する知見は積み上がっている。パワーの抑制には以下の2点を踏まえた構造的な制約が必要だ。

1点目は、パワーを個人または少人数の集団の手に集中させるのではなく、多くの人で共有すべきという点。もう1点は権力者に説明責任を負わせる必要があるという点だ。

組織であれ、社会全般であれ、パワーを共有できず、強者に説明責任を負わせられなくなると、権力の乱用と独裁が入り込む余地が生まれる。

この失敗を避ける唯一の方法は、市民が集団としてパワーを監視する責任を負っていると全員が自覚すること。

加えて、組織や社会でパワーの共有と説明責任を保護する制度を守り、改善していくためにも、集団の力を活用すべきだ。そのためには、リーダーを賢く選ぶ必要がある。

リーダーにふさわしいのは、あらゆる人々──出自や所属する社会集団に関係なく──のために社会的リソースを活用する覚悟があり、自由な発想と、社会の一員としての公共心を兼ね備えた人物だ。

そうしたリーダーを選ぶことができて初めて、私たちは道義的な人格と民主主義的な能力を武器に、市民としての「筋肉」を行使できるようになる。そして、仮に政治家や独裁者が民主主義を軽視しても、扇動やプロパガンダを見抜き、脅威を認識し、個人の権利と自由を取り戻すべく反撃できる。

必要なのは、パワーに背を向けることではない。個人として、また市民の集合体として、自らのパワーを理解し、構築し、行使すること。そして、個人の権利と自由を保障し、不公正なパワー構造と闘うことだ。

そのためには、私たち一人一人が、パワーは全員に関わる問題だと認識する必要がある。「パワーは万人のもの」なのだから。



ハーバード大学MBA発 世界を変える「権力」の授業
  ジュリー・バッティラーナ&ティチアナ・カシアロ (著)
  井口 景子 (訳)

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ和平サミット、50カ国以上が参加表明=開

ビジネス

MSCI新興国指数でインド株ウエートが最高更新、資

ビジネス

海外勢の米国債保有、3月は過去最高更新 日本の保有

ビジネス

TikTok米事業買収を検討、ドジャース元オーナー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 5

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中