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中国鉄道メーカー、欧州で「車両販売キャンセル」の衝撃 2年経っても運行認可出ず

2022年5月22日(日)11時04分
橋爪智之(欧州鉄道フォトライター) *東洋経済オンラインからの転載

この先はあくまで憶測にすぎないが、CAFは以前よりチェコ鉄道の車両入札へ応札したり、ポーランドのバスメーカーであるソラリスを傘下に収めたりと、中欧市場へかなり関心を持っていることがうかがえる。また、2021年にはアルストムから連接車両「コラディア・ポリヴァレント」と「タレント3」のプラットフォームおよび生産拠点を取得するなど、事業の拡大を進めている。

これらの動向から、シリウスが2年以上にわたってテストを続けるも一向に運行認可を取得できないことを口実としてCRRCとの契約を破棄させ、代わりに同社製の車両を導入させることも視野に入れているのではないか、というシナリオが見えてくる。

実際、今回契約を破棄されたとされるシリウスも、すでに営業を行っているシュタドラーFLIRTも、最高時速160kmの連接式車両という点でコラディア・ポリヴァレントやタレント3と共通している。

CRRCは今後どうする?

一方のCRRCは、シリウス3編成をすでに製造し、テスト走行も開始している。しかし前述の通り、ヨーロッパ域内での走行認可が取得できなければ営業運行ができないため、ヨーロッパ域内ではどこの鉄道会社とも契約することはできない。となると考えられるシナリオは2つある。1つは認可取得へ向けて引き続きテストを行い、その傍らで他の運行会社との交渉を地道に続けること、もう1つはヨーロッパ域内での運行を諦め、他の国や地域へ売却することだ。

こうした認可や運行許可は、あくまでヨーロッパ域内での話で、標準軌で直流3kVもしくは交流25kV・50Hzで電化されている国であれば、理論上は運行することが可能なので、この基準に合致する国を探すというのが手っ取り早い。極端な話ではあるが、例えば中国は交流25kV・50Hzで電化されているので、同社が引き取ってもち帰ったとしても運行できないわけではない。

CRRCはすでにオーストリアのウィーンに支社を置き、ヨーロッパへの販路拡大に注力しているが、今のところヨーロッパ市場へ参入できているとは言い難い。

今回、契約を破棄されたレオ・エクスプレス向けシリウスとは別に、同社は2つのプロジェクトを推進している。1つはハンガリーの貨物会社レールカーゴハンガリア(Rail Cargo Hungaria・RCH)向けの電気機関車バイソン、もう1つはオーストリアの民間鉄道会社ウェストバーン(Westbahn)向けの新型2階建て電車で、これらはいずれもリース契約となっている。

「シリウス」とCRRCの欧州向け車両

 
試験場に到着直後のシリウス 2020年8月(撮影:橋爪智之)チェコのヴェリム試験場でテスト中の「シリウス」 (撮影:橋爪智之)ヴェリム試験場の構内で入換作業中のシリウス (撮影:橋爪智之) ヴェリム試験場の構内で入換作業中のシリウス (撮影:橋爪智之)車体に装飾が施され営業運転開始も近いと思われたが実現することはなかった (撮影:橋爪智之)ほかのテスト車両とともに留置されるシリウス (撮影:橋爪智之)レールカーゴハンガリー(RCH)向けの電気機関車「バイソン」 (撮影:橋爪智之)周回線を高速で走行するバイソン (撮影:橋爪智之)他の機関車と連結して試運転中のバイソン (撮影:橋爪智之)
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