最新記事

日本企業

オートバイ業界初の女性トップ桐野英子新社長はなぜ「漢カワサキ」で認められたのか

2021年12月12日(日)17時40分
河崎三行(ライター) *PRESIDENT Onlineからの転載

兵庫県・明石に拠点を構える川崎重工のオートバイ部門営業職とは、市場予測と生産対応を行い、世界各国にあるカワサキ販売会社にどのモデルを何台届け、それぞれをいかなる値付けで売るかを決めるというものだ。

明石勤務の10年目、桐野氏は2001年1月からフランスでの現地販売法人『カワサキモータース・フランス(KMF)』へ出向せよとの辞令を受け取る。川崎重工として初の女性海外駐在員だった。

「KMFでの仕事は明石でのそれの延長で、フランス市場に向いたどんな製品をどのぐらい投入するかを決め、さらにマーケットでのシェアを何パーセント取り、親会社にどれほどの利益を還元するかなどの戦略を立てるというもの。初めの3年は同じく川重から出向していた日本人社長のアシスタントを務めながら、業務を覚えていきました」

フランス語などまったく話せない状態での渡仏だった。

「フランス人ってツンケンしてて、全然話をしてくれない。感じ悪い人たちだなーと思ってました。だから向こうで暮らし始めた直後は会社にこそ行っていたものの、土日はどうせ外に出ても気分を害することばかりでつまらないからと、完全に引きこもり状態。でもある時、これじゃいけない、この国の言葉でしゃべるんだと決めて、独学のフランス語でコミュニケーションを取り始めたんです」

「なんでここに女がいるの」という視線

会社の費用で業後は現地の語学学校へ通えることになっていたのだが、忙しくてとてもそんな時間は取れない。だから意味がわからなくても他人が話している言葉にひたすら耳を澄ませ、何を言っているのか理解するよう努めた。そして自分のフランス語が文法から何から間違いだらけなのはわかっていたが、気にせずとにかく話しかけた。

「そしたらなんと、フランス人はとっても親切でした。彼らが無愛想だったのは、当時のあの国にはまだまだフランス語しか話せない人がほとんどだったから。外国人に英語で声をかけられてもわからないと、接触を避けていただけだったんですよ」

出向4年目には先任者を引き継いでKMF社長に就任、唯一の日本人として50名のフランス人スタッフを束ねる立場となった。この頃には会話と読解ならフランス語に不自由せず、社内の労働組合と折衝をこなしたり、同国の二輪事業者が集まる会議に出席して意見を述べるまでになっていた。

しかし言葉の他にもうひとつ、桐野氏には越えなければならない壁があった。フランスでも、バイク業界において女性は圧倒的な少数派だったのだ。

「私自身は、バイク業界で働く中で女性であることのデメリットを感じたことは特にないんです。ただ『なんでここに女がいるの?』という視線は、フランスに行く前も行ってからも、あったかもしれません。KMFで社長を務めていた頃の例だと、私の下についていたセールスマネージャーは身長が180cmぐらい、体重は100キロあろうかという大きなフランス人のおじさんで、アポイントが入ると一緒に出向いていたんです。すると先方にはたいてい、彼の方が社長だと思われてましたね。私のことは『日本の会社だから、日本人のアシスタントがいるのね』みたいに受け取られて、名刺も出してもらえないことが日常茶飯事で」

だからといって気色ばんだりしないのが、彼女らしさなのだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、湾岸のエネ施設へ報復警告 トランプ氏に反発

ビジネス

中国首相、フォーラムで一段の経済開放約束 日本企業

ワールド

G7、エネ供給支援へ必要な措置講じる用意 外相声明

ワールド

トランプ氏、米空港にICE捜査官派遣と警告 予算巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 2
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記者に、イスラエル機がミサイル発射(レバノン)
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 7
    人気セレブの「問題ビデオ」拡散を受け、出演する米…
  • 8
    「筋力の正体」は筋肉ではない...ストロングマンが語…
  • 9
    トランプ政権の「大本営」、イラン戦争を批判的に報…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中