最新記事

中国

習近平に愛され捨てられたジャック・マー 転落劇の内幕

2021年11月8日(月)11時18分

投資顧問会社BDAチャイナのダンカン・クラーク会長は「ジャック(馬氏)はあまりにも挑発的で、習氏の新たな統治姿勢からはみ出したため、政府が大改革を始めたことを知らせるための最初の標的になったのは、当然の成り行きだ」と語る。

馬氏は渡航して外国首脳と定期的に交流し、海外から杭州市のアリババ本部を訪れるVIPも後を絶たなかったとクラーク氏は指摘する。

トランプ氏との会談後も国際交流は続いた。2018年から2020年にかけては、グテレス国連事務総長、ヨルダンのラニア王妃、マレーシアのマハティール前首相など、そうそうたる顔ぶれと会談を持った。

馬氏に近い人物によると、杭州市の本部にはアリババ博物館を擁するビルがあり、馬氏らが海外からの訪問客をもてなしていた。また馬氏は、外国政治家との会談を中国のための「非公式外交」と位置づけ、楽しんでいたという。

今は普通の人

関係者らによると、アント・グループ上場中止からの数週間で、馬氏は習氏の取り巻き少なくとも2人に面会を願い出たが、いずれも却下された。

政府筋によると、馬氏は続いて今年、習氏に直接書簡を送り、残りの人生を中国農村部の教育に捧げたいと申し出た。馬氏は元英語教師。習氏は5月、中国高官らとの会合で書簡に言及したという。

書簡についてメディアが報じるのはこれが初めて。習氏がこの申し出を承認したか、また返答したかについて、ロイターは確認できなかった。馬氏が書簡を執筆した正確な時期も特定できなかった。

アリババ傘下の香港英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは先月、馬氏が「環境問題に関する農業・技術研究ツアー」のために欧州を訪れたと報じた。先週の記事では、白い防護ガウンを着て植木鉢を持つ馬氏の姿が掲載された。今後も農業インフラや植物育種に携わる欧州企業や研究機関を歴訪する予定だと記事は報じている。

アリババの共同創業者である蔡崇信(ジョセフ・ツァイ)副会長は6月、珍しく馬氏に関してCNBCのインタビューに答え、「彼は今、身を低くしている。私は毎日彼と話をする」とした上で、「ジャックが強大な権力を握っているというのは当たらないと思う」と付け加えた。

「彼はあなたや私と同じく、ごく普通の一個人だ」と蔡氏は語った。

(Julie Zhu記者 Kane Wu記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国の不動産バブルは弾けるか? 恒大集団の破綻が経済戦略の転換点に
・中国製スマホ「早急に処分を」リトアニアが重大なリスクを警告
・武漢研究所、遺伝子操作でヒトへの感染力を強める実験を計画していた



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中