最新記事

サプライチェーン

アメリカのワクチン接種普及の影に「資材囲い込み」 他国メーカー困惑

2021年5月13日(木)10時33分

国内の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)制圧に向けて、米国は自国のワクチン製造企業に対し、必要な国産資材への優先アクセス権を認めた。写真は使用済みモデルナ製ワクチンの容器。ノースダコタ州デイトンの接種会場で4月撮影(2021年 ロイター/Dan Koeck)

国内の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)制圧に向けて、米国は自国のワクチン製造企業に対し、必要な国産資材への優先アクセス権を認めた。

結果として連邦政府は、大量の新型コロナウイルスワクチンの完成品だけでなく、サプライチェーン全体にわたるワクチン原材料や製造設備も抱え込むことになった。主要なサプライヤー数社を含む10数件の契約をロイターが検証し判明した。

米国の措置により、こうした原材料や設備を切実に必要としている一部の国は別の選択肢を必死で探す羽目となり、ワクチン供給が一部の国に偏った状況が一層悪化したと、サプライヤーや他国のワクチン製造企業、さらにはワクチン市場の専門家が取材に明らかにした。

バイデン米大統領は5日、新型コロナワクチンの特許放棄を支持する考えを示し、全世界的なワクチン製造のスピードアップを支援するよう政権に働きかけてきた人々に感銘を与えた。この措置が世界貿易機関(WTO)によって承認されれば、引っ張りだこになっているワクチンを他国企業も製造できるようになる。

だが特許の放棄では、ワクチン原材料と製造設備の不足が世界的に深刻化しているという、同程度に切迫しているにもかかわらずあまり注目を集めていない問題は解消されない。米国はワクチン製造に不可欠なフィルター、チューブ、シングルユースの専用バッグなど大量の資材をがっちりと抱え込んでいる。

インドなど新型コロナが猛威を振るっている国では、爆発的な感染拡大により病院や遺体安置所が飽和状態に陥っているが、仮に特許が放棄されたとしても、資材がなければワクチン製造は不可能だ。

この問題は、米国が1950年代の朝鮮戦争の際に制定した「国防生産法」(DPA)という法律に起因している。同法は、国防に関連する調達を優先させる権限を連邦機関に与えている。米軍関連の調達はもとより、自然災害などさまざまな事態に対応するために利用されてきた。

トランプ前政権は、米国で製造されるワクチンの他、今回のパンデミックへの対応に必要な製品に関して、連邦政府による調達を最優先とするためDPAを発動した。その代りにワクチン製造企業に対しては、連邦政府による命令に応じるために必要な資材全般について優先的なアクセスが認められた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:現実路線に転じる英右派「リフォームUK」

ビジネス

ネクスペリア中国部門「在庫十分」、親会社のウエハー

ワールド

トランプ氏、ナイジェリアでの軍事行動を警告 キリス

ワールド

シリア暫定大統領、ワシントンを訪問へ=米特使
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中