最新記事

新型コロナウイルス

気がつけば乗客は自分1人だけ それでも飛ぶ米航空機業界の苦境

2020年4月12日(日)10時32分

今月3日、ワシントン発ニューオリンズ行きのアメリカン航空4511便に乗ったロイターのカメラマン、カーロス・バリア記者は、乗客が自分1人であることに気づいた。写真はがらがらの機内で離陸を待つ客室乗務員。4月3日、ワシントンで撮影(2020年 ロイター/Carlos Barria)

今月3日、ワシントン発ニューオーリンズ行きのアメリカン航空4511便に乗ったロイターのカメラマン、カーロス・バリア記者は、乗客が自分1人であることに気づいた。

「気まずい瞬間が何度かあった」と、バリア記者は言う。

例えばテクニカルな問題で離陸が遅れることを伝えるのに、パイロットは機内放送を使わず、席までやってきて直接口頭で説明してくれた。2人の客室乗務員はファーストクラスに移ることを彼に勧め、1人のためだけに機内安全の実演をしてくれた。

「きちんと見ないわけにはいかなかった」と、バリア記者は言う。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で空の便の利用者が減少する中、米国の航空会社は運航本数を大幅に減らしている。にもかかわらず、機内はがらがらというフライトが当たり前になっている。

ワシントンのロナルド・レーガン・ナショナル空港からその日飛び立ったアメリカン航空は119機。そのうち8便は乗客が1人だけ。それ以外の便もごくわずかな客しか乗っていなかったという。ちょうど1年前は254機のアメリカン航空機がナショナル空港を離陸している。

アメリカン航空のバズ・ラジャ上級副社長は2日、ロイターに対し、「じきにキャンセルする乗客さえいなくなってしまうだろう」と語った。

米運輸保安局(TSA)のウェブサイトによると、3日に保安検査を受けた搭乗客は12万9763人。昨年同日の248万人から激減した。

米航空各社は毎日損失が出ているとして、政府による支援措置を申請している。従業員への給与を維持し、新型コロナウイルス問題が沈静化して需要が回復したときに備え、スタッフを訓練しておくための支援だ。

米疾病予防管理センター(CDC)は4日、新型コロナウイルスの感染者が、前回発表時に比べて3万7926人増の27万7205人になったと発表。死者も1150人から6593人に増加した。

客室乗務員は業務を続けている。しかしロイターの取材に対し、自身を通して家族に感染させてしまうのではないかと不安を口にする人もいた。

バリア記者が乗った4511便を担当した客室乗務員の1人は、ニューオーリンズからマイアミへ飛行機で行き、がん治療を受ける父親の世話をする予定だと話す。それまでは毎晩ホテルに泊まる、4日間の勤務ローテーションだった。

アメリカン航空のダグ・パーカーCEO(最高経営責任者)は先週、ビデオメッセージのなかで、「選挙で選ばれた公職者たちは、この危機の最中でも、私たちが安全な運航を提供し続けることを求めている。私たちはその要請に応えて飛行機を飛ばし、移動する必要がある人へのサービスを続けなければならない」と語った。

乗客と乗務員を守るため、航空各社は飲み物・軽食のサービスを縮小し、機内清掃の手順を強化し、客室乗務員に手袋を着用させている。

だが、マスクは配布されていない。

ニューオーリンズに着陸するまでに、バリア記者は乗務員に仲間意識を感じるようになっていた。「私は乗務員たちがやってくれていることに感謝していたし、乗務員たちは私が搭乗していることに感謝していた」と、バリア記者は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

*この記事は、4日時点の情報を基に構成されています。

Tracy Rucinski

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

【関連記事】
・新型コロナウイルス感染症で「目が痛む」人が増えている?
・気味が悪いくらいそっくり......新型コロナを予言したウイルス映画が語ること
・善良な9割以外の日本人の行動を変えさせろ
・中国、新型コロナウイルス新規感染者増加 ロシアからの渡航者ら
・TBSとテレビ東京、新型コロナウイルス対策で「全収録中止」 芸能界にも感染者で大英断


20200414issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年4月14日号(4月7日発売)は「ルポ五輪延期」特集。IOC、日本政府、東京都の「権謀術数と打算」を追う。PLUS 陸上サニブラウンの本音/デーブ・スペクター五輪斬り/「五輪特需景気」消滅?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレに忍耐強く対応、年末まで利下げない可能性=

ワールド

NATO、ウクライナ防空強化に一段の取り組み=事務

ビジネス

米3月中古住宅販売、前月比4.3%減の419万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請、21万2000件と横ばい 労働
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 5

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 6

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲…

  • 7

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 8

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 9

    インド政府による超法規的な「テロリスト」殺害がパ…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中