最新記事

中国

「厳冬期」の中国映画業界、新型ウイルス感染拡大がとどめ刺す?

2020年2月15日(土)11時19分

検閲の痛み

テンセント・エンターテインメントが今年1月に公表したリポートによると、昨年はチケット価格の上昇によって興行収入が640億元(92億ドル)と過去最高を記録したものの、映画館の平均稼働率は過去5年間で最低だった。

政府が基本的に主要外国作品の公開を年34本に制限しているため、市場を支えるには国内の映画製作が頼みの綱だ。しかし、検閲の強化で国内作品も急減している。

習近平国家主席の下、活動家の弾圧、インターネット規制、監視拡大といった社会統制強化の一環として「社会主義核心価値観」に反するコンテンツは、2017年から禁止されている。

業界筋によると、中国建国70周年だった昨年は、特に検閲に対してピリピリしていた。報道によると、少なくとも15本の映画が回収あるいは公開延期、修正を迫られた。

最も大きな犠牲となったのは、クワン・フー(管虎)監督が8000万ドルの予算をかけて製作したとされる第2次世界大戦の叙事詩的作品「ザ・エイト・ハンドレッド」だ。昨年6月に公開が予定されていたが、引退した中国共産党の元幹部らから、台湾に逃げた仇敵・国民党を英雄視しているとの苦情が出て土壇場で、上映中止となった。

製作にさえこぎ着けられない映画もある。北京光線影業と北京京西文化は昨年、ともに23作品の公開を予定していたが、北京光線影業は11本、北京京西文化は9本しか公開できなかった。

創作の自由はすっかり萎縮し、中国の歴史ある映画祭、中国独立影像展は1月、無期限に活動を中止すると発表した。主催者は「本当に純粋なインディペンデント精神を持つ映画祭の開催は不可能だ」と語った。

21年には中国共産党創設100周年を控えているため、近い将来に検閲が緩くなることは期待できない。

給与に関する新規則の導入や、超有名俳優らによる税金対策への厳しい監視も業界を揺らしている。人気映画俳優、范冰冰(ファン・ビンビン)さんは脱税で1億2900万ドルの罰金を科された。

国内メディアの推計によると、こうした中で昨年は国内の映画製作会社1900社近くが破綻した。

中国人俳優Li Binさん(37)は、「厳しい冬」が自身と他の俳優らの仕事に対する姿勢を変えたと言う。

「今だと、だれかから脚本を与えられて台本を手にした瞬間、最初にやるのは撮影不可能な部分を探すことだ。ストーリーはあまり気にしない。それより脚本が検閲を通るか、投資家が資金を回収できるかが気にかかる」

Pei Li Brenda Goh

[北京/上海 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20200218issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中