最新記事

株式空売り規制が世界的に再燃の動き 市場保護か不当介入か

2019年11月25日(月)11時56分

乏しい相場への影響

ニューヨーク連銀が12年、空売りを08年終盤に事実上禁じられた400余りの米金融株の当時の14日間の値動きを調べたところでも、意図した効果は得られなかった。

これらの銘柄は平均で12%下落し、規制対象外だった非金融株の動きとほぼ変わらなかったのだ。一方金融株の取引コストは、平均よりも6億ドル以上増大したと推定されている。

連銀は「われわれの分析では、空売り禁止は株価にほとんど影響しなかった」と述べ、株価変動をもたらした具体的な原因は不明としつつも、市場の流動性が低下して取引コストが上がったと付け加えた。

ESMAが17年に示した分析でも、空売り禁止は株価に大きな影響を与えなかったことが判明した。

それでもESMAが「選別的な介入」を続ける決意は固い。例えば今年、不正会計疑惑が報じられた決済サービスのワイヤーカードの空売りをドイツ政府が2カ月禁止したことに関して「ドイツ金融市場への脅威に対処するための適切かつ相応な(措置)」と支持した。

不都合な真実

空売りは古くから行われている取引で、そもそも1600年代初めにさかのぼり、当時のオランダでは東インド会社の株価を支えるために当局が介入する場面もあった。

マディー・ウォーターズのブロック氏らは、空売りを禁止したり何らかの制限を加えようとするのは政治的なパフォーマンスの一環にすぎないと手厳しく切り捨てる。

同氏は、空売りを禁止するのは本当のところは「真実だが不快なニュース」を「フェイクニュース」と名付けて排除するようなものだと主張し、ドイツとフランスが空売り業者の調査を開始した後、両国で自らが構築している空売りポジションを公言しにくくなったとこぼした。

ドイツ、フランス、イタリアの検察は、空売り業者のワイヤーカードや仏小売り大手カジノなどに関する調査や投資を調べている。

中国企業への空売りで知られるダン・デービッド氏は、景気後退が到来すれば世界的にこうした動きが出てくるのではないかと懸念する。「この種の介入は長期的には絶対に機能しないが、政治面では短期的に必ず成功する」という。

トルコの空売り禁止は、同国経済の弱さの表れで依然として投資を敬遠したくなる、と語るのはヘッジファンドのミーナ・キャピタルを創設したKnaled Abdel Mjeed氏だ。

プラティナム・アセット・マネジメント創設者カール・ネルソン氏は、世界的に自由な取引の枠組みから離れていく動きが加速していて、その中に空売りを禁止する政府が増加することが含まれてもおかしくないとの見方を示した。

Lawrence Delevingne Simon Jessop Jonathan Spicer

[ニューヨーク/ロンドン/イスタンブール ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イスラエル軍、ラファ住民に避難促す 地上攻撃準備か

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、4月も50超え1年ぶり高水準 

ビジネス

独サービスPMI、4月53.2に上昇 受注好調で6

ワールド

ロシア、軍事演習で戦術核兵器の使用練習へ 西側の挑
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表...奇妙な姿の超希少カスザメを発見、100年ぶり研究再開

  • 4

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 5

    ウクライナがモスクワの空港で「放火」工作を実行す…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 9

    マフィアに狙われたオランダ王女が「スペイン極秘留…

  • 10

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中