最新記事

貿易戦争

トランプと習近平、貿易戦争を止める気配無し 次なる切り札は?

2019年6月12日(水)14時34分

●米国債の売却

中国は最大の米国債保有国であり、約1兆1200億ドル分を保有している。外貨準備の安全な保管方法として、米国債を購入しているのだ。

中国共産党系メディア環球時報の編集長は5月、「米国債を売却する可能性とその具体的なやり方について、多くの中国の研究者が議論している」とツイートした。

中国側が保有米国債を売却すれば米金利は急上昇し、融資のコストが押し上げられる。米連邦準備理事会(FRB)は、指標となる金利を引き下げたり、米国債を買い入れるなどの対応を迫られるだろう。

中国は3月、償還までの期間がここ2年半で最も長い米国債を売却した。

だが、大規模に売却すれば(米国債が下がって)自国の外貨準備が目減りするため、中国政府が売却する可能性は低いと、多くの中国専門家は指摘する。中国は安全で利回りの良い代替投資先を急ぎ探さなければならない。

●通貨切り下げ

人民元を一度限り切り下げ、米国から関税を課されても輸出競争力を増強する案を提言するアナリストもいる。だがそれは、国内外の投資家を動揺させ、「為替操作国」に制裁を科す材料を米側に与えるだけだろう。

「(通貨切り下げは)報復ではない。貿易戦争の激化だ」と、米ピーターソン国際経済研究所のゲリー・ハフバウワー上級研究員は言う。

人民元は、米当局が最初に中国製品から関税を徴収し始めた2018年7月以降、4%近く下落している。これにより、関税措置が中国の輸出品に及ぼす影響が幾分吸収されている。

●米企業にいやがらせ、ビザ発給を遅らせる

中国商務省は5月31日、中国企業に損害を与える恐れのある「信頼できない」外国企業や組織、個人のリストを作成する方針を表明したと、国営ラジオ局は報じた。

これは、特定の国や企業を名指ししたものではないが、同省の報道官は「信頼できない」リストには、市場のルールや契約の精神を無視したり、商業上以外の理由で中国企業への供給を止めたり、中国企業の「正当な権利や利益を大きく損なう」企業などが含まれると述べたと、同ラジオ局は報じた。

中国は、米アップルなど大手企業を標的にする可能性があるが、数百万人の中国人が同社に関連した雇用に依存しているため、逆効果となる可能性もある。

米金融大手ゴールドマン・サックス[GSGSC.UL]は、中国がアップル製品を禁止すれば、同社の利益は約3分の1減少すると推計する。アップルや他の米企業はまた、中国消費者によるボイコットにも脆弱だ。

これには前例がある。米国が韓国にミサイル防衛システムを配備したことに中国政府が怒り、韓国企業がボイコットの対象となった。

中国政府は、税務調査や免許停止などの行政手段を使い、米銀やコーヒーチェーン大手スターバックス、宅配大手フェデックス、エネルギーや穀物を扱うコモディディ企業などを締め付けることもできる。

一方で、米国の大手企業は政府に対し、穏健な立場を取るよう迫ってきた。中国政府がこうした企業に厳しい態度を取っても、自分たちの助けにならない。また、多くが中国企業と共同で事業を運営しており、それらが損害を受けかねない。

米中ともに、すでに就学ビザの発給を遅らせている。今後、企業幹部や政府関係者に対しても同じ措置が取られる可能性がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ議会、8日に鉱物資源協定批准の採決と議員

ワールド

カナダ首相、トランプ氏と6日会談 ワシントンで

ビジネス

FRB利下げ再開は7月、堅調な雇用統計受け市場予測

ワールド

ガザ封鎖2カ月、食料ほぼ払底 国連「水を巡る殺し合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    金を爆買いする中国のアメリカ離れ
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中